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ミステリの祭典

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偽りの学舎

作家 青木知己
出版日2007年06月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 人並由真
(2024/07/04 09:06登録)
(ネタバレなし)
「私」こと、浅間山の周辺で妻の祐子とともにペンションのオーナー業を営む30代後半の、元警視庁刑事・来生(きすぎ)は、ある日、元部下で友人だった現職の警視庁刑事・新田裕貴の訪問を受ける。新田は後輩にあたるという二十代の女性、水口沙織を紹介。その沙織は、全国に一万人規模の塾生を抱える大手学習塾「栄秀学園」の社長・片貝栄作の秘書だったが、その片貝に生命の安全をおびやかす脅迫状が来ているという。そしてその脅迫状には差出人の署名があるが、それは2年前に死亡した元・栄秀学園の関係者だった。外聞をはばかる世界ゆえに極秘の調査を頼まれた来生は、新任講師として栄秀学園に潜入。そこに潜む真実を探ろうとするが、彼の前には不可解な人間消失事件をふくめて、奇妙な謎と事件が続発する。

 
 本サイトでも評者をふくめて割と読まれている、マスターピース短編ミステリ集『Y駅発深夜バス』(2017年)。
 その作者・青木知己がそこからさらに10年前の2007年に上梓したまま、いまだ文庫化もされていない(電子書籍化はされてるらしいが)デビュー長編。

 ここのサイトでもまだレビューがない、どんなかな? と興味が湧いて図書館を利用して読んでみたが……いやいやいや、謎解きパズラー要素の強い国産ハードボイルドだったのね! これは驚きました。

 しかしながら、主人公をふくむ登場人物たちの造形、話の転がし方、不可能犯罪のトリックを設けた複数の謎の提示、伏線の張り具合&回収具合、そして種々の描写に感じる<国産ハードボイルドのこころ>と、これは非常に良いです。3時間であっというまに読んでしまったけれど、話のこってり具合は十分に満足のいくものでした。
 特に某キャラの扱い、これは(中略)と予期して、結局(中略)なんだけど、そこがいいのよ。

 ちなみに主人公の来生に奥さんいらないんじゃないか、という声もあるけれど、ちっちっち、たぶんソレは違う(笑)。作者がやりたかったのは、妻帯者でもちゃんとハードボイルド主人公になる、っつーことだろう(その文芸から始めて、ちょっとばかし面白い感じにストーリーの脇道の枝葉も生やしたりしているし)。

 で、あえて本作の減点要素を言うならば、物語の世界の箱庭が狭すぎて、かなりの高い確率であちこちの登場人物のあいだに関係性が築かれてしまっている、そのことだけだな。
 でもまあソレって、言い換えれば、パーツとして配置した登場人物をムダなく使いまくっているということでもあるしな。ホメる面とウラオモテの部分なのかもしれん。

 で、17年も放っておかれているんだから、もう主人公の来生の復活はまずないんだろうけど、できれば今からでも考えを変えて、作者にはシリーズ化してもらいたい。一読者として今夜から、この主人公の復活の日を待っております(笑)。

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