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ミステリの祭典

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茜雲の渦

作家 黒岩重吾
出版日1976年01月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 クリスティ再読
(2024/06/29 12:55登録)
昭和の怪物作家の一角であることは言うまでもない。この本だと1976年刊行で、この頃は月刊黒岩重吾か!ってなるくらいの出版点数が出ているよ。膨大な原稿を超特急で書き飛ばしたわけで、悪筆四天王の一人として編集者を泣かせたことでも有名だね。

でなんで評者今回この本やる気になったのか、というと、子供の頃にこのカッパブックスを見て、すごく「怖い・不吉...」という強い印象があったんだ。神経質な子供でごめん、と今更ながら親に謝りたくなる(苦笑) タイトルの通り、茜色の落日模様に、カクテルグラスに車のキー、椅子がシルエットで抜かれているカバーだ。これがなんか怖くてね....まあそんな記憶があることから、実際どんな内容なんだろう?という興味で取り上げた。

香鶴はスズ商事の社長秘書を務めながら、社長の鈴川に囲われていた。ある日社を訪れた暗い精悍さを備えた男、東野の執拗な視線に気づく。自分を知るらしいこの男の来訪目的を鈴川社長に尋ねるが、香鶴ははぐらかされる....鈴川は何か弱みを握られているらしい。香鶴が持つ独特のセックスアピールから、数多い男が香鶴を通り過ぎ、中には不穏な事件もいくつも。そんな日々に疲れた香鶴は鈴川社長に囲われる身に甘んじていた。鈴川の過去と社内での内部抗争が絡み、苛立つ鈴川は香鶴に暴力を振るうようになる。香鶴は鈴川にも遺恨がある東野に恋し、鈴川に反撃する....

まあこんな設定。で、中盤以降には殺人事件もあり、幕切では真犯人の自白・逮捕もあるから、かたちの上ではミステリ。だけどねえ、読んだ印象はそういうものではないなあ。風俗小説、というかハーレクイン(苦笑)。いやヒロインの男遍歴が詳細で、ヒーローの東野にそういう魅力がしっかりとあって、描けているから、ダークだけどもハーレクインの役目は果たせるよ。濡れ場描写もけしてアザトくはないから、女性読者を意識しているのかな。

で、このタイトル「茜雲の渦」はそんなヒロインの性的欲求のドロドロを自身で喩えたもの。このヒロイン、男に脇腹をナイフで刺されるとか、硫酸をかけられるとか、無理心中で車で海に飛び込まれるとか、事件前の経歴でも凄まじい。付き合う男が皆不幸な目にあう、というのを自覚して、「安定した二号生活」を選んだつもりだった....ってさあ、男に置き換えたら「かつては裏社会で悪名を馳せた主人公は、今は過去を隠して平穏な日々を送っていた」とかの女性版のわけだよ。昭和ってさあ、男も女もアツく生きてたなぁ...

そんな話だけど、一応ハッピーエンド。これもハーレクインの必須項目。剛腕だけど意外なくらいソツはなく、乗って読めるエンタメであることは間違いない。

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