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ミステリの祭典

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初等ヤクザの犯罪学教室
浅田次郎

作家 評論・エッセイ
出版日1993年12月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 斎藤警部
(2024/06/20 21:39登録)
“こうした趣味の悪いイタズラはともかくといたしまして、一つの解決策としてどうしても相手を拉致しなければならないケースはままあるものです。”

そうめんのようにすいすい読める愉しいミステリ副読本。 どこまで本人が直接経験したことなのか分かりませんが、様々な犯罪の方法論や精神論を語るに当たりやたらと現場感、現実感が高い文章の中に所々「これ、いくらなんでもホラ話じゃね?」と思わせる挿話が闖入して来たり、或いは本作ほとんどフィクションなんじゃ。。と疑わせたり、いやいや冗談めかして実は本当にやってんじゃないの色々、と思わせたり、気が付けば人生とミステリ読書に対して実に有意義な知識や教養を摺り込まれている、そんな素敵な一冊です。

“倒産劇の醍醐味は、これら多彩なキャラクターが入り乱れて「部屋別総当たり」の状態となり、時々刻々思いがけない筋書きが展開されていくという緊張感にあります。そこはあらゆる犯罪の見本市であり、スリルとサスペンスに満ち満ちているのです。”

たっぷりのユーモアとアドヴェンチャーに逆説と箴言、そして少しばかりのペーソス。 『兇悪犯罪のノウハウを講義する』と嘯く浅田さんの講義録は、絶妙な距離感の肉体感覚と心憎いすっ呆け感覚とがごく自然に手を結んでおり、読者を気持ちよくマッサージしてくれる効果、よしまたミステリを読もうと強く思わせてくれる効果を最短距離でもたらします。

“腰紐を引かれて鉄扉から出ていくとき、T氏は私の房に振り向いてもう一度にっこりと笑い、前手錠を掛けられた両拳を力いっぱい胸の前に突き出してみせました。”

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