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ミステリの祭典

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絹いろの悪夢
私立探偵ダニー・ボイド

作家 カーター・ブラウン
出版日1964年01月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 人並由真
(2024/06/13 06:25登録)
(ネタバレなし)
 その年の秋。「おれ」こと私立探偵ダニー・ボイドの秘書兼セックスフレンド(今でいう)の赤毛美人フラン・ジョーダンが、無断で五日も仕事を休んだ。すると謎の女(のちに美女と判明)「ミッドナイト」から連絡があり、フランを人質にしてるので彼女を無事に取り戻したかったら、ある要求を聞いてほしいという。ミッドナイトのもとに赴き、人死にも生じるすったもんだの末にフランを奪回したボイド。だがミッドナイトの頼みの内容に関心を抱いた彼は、フランの身の安全を確保したのち、改めてミッドナイトのもとにのりこみ、今度は正当なビジネスとしてその依頼を受けることにする。かくしてミッドナイトの指示のままに別名を使い、目的の地アイオワに向かったボイドだが、そこでは意外な事態が彼を待ち受けていた。

 1963年のクレジット作品。ミステリ書誌サイト「aga-search」によればダニー・ボイドものの14番目の長編。

 レギュラーヒロインである秘書フランの誘拐騒ぎから開幕する序盤は、事件屋稼業ものの私立探偵小説としてはありがちな感じ。(と言いつつ、類例の作品などは、すぐにパッと書名を上げられないが。)

 しかし序盤からキャラの濃い連中が続々と登場し、とりあえずフランを救うまでが最初のウン十ページ。
 以降、攻勢に転じたボイドが動き出してからは、フツーの私立探偵小説の枠を超えたジャンル越境的な方向に話が流れ込み、そこからまたさらにストーリーが弾んで、いっぽうでいくつもの謎を残したまま読み手の興味を刺激し、どんどん面白くなる。
 間違いなくボイドもの、いや、これまで何十冊も読んできたカーター・ブラウンの諸作全般のなかでも、かなりデキがいい。

 とにかく「立った」キャラがひしめき合っているのに、残り少なくなったページ数でどう話をまとめるんだ? と思っていたら、いつものブラウンなりの「名探偵、一同の前で、さて、と言い」パターンで、事件の意外な奥行きが明かされる。今回はその最後の真相のストンと落ちる&決まる感じがとてもよろしい。
 話の中途で某キャラに抱くボイドの妙にしんみりしたメンタリティも、どっかチャンドラーのかの作品を思わせる。

 とても面白かったけど、この事件は後日譚をもう一回以上作れて、ボイドシリーズの中でのシリーズ・イン・シリーズに持っていけそうな感じ。
 もしかしたら実際にそういう趣向の作品があるのかもしれないが、あったとしてももちろん未訳である(なにしろ本作は、邦訳があるボイドもののなかで、後ろから二番目という、あとの方の作品なので)。
 誰か原書まで追っかけている奇特な人、その辺の事情を存じないだろうか。
 
 翻訳はあんまり知らない「泉真也」という人だが、フツーにスムーズに楽しめた。奥付の訳者紹介を見るとほかに訳書の記載もないので、これが最初の翻訳だったのか? 肩書の「探偵小説翻訳家」というのが、ゆかしい(笑)。 

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