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ミステリの祭典

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MR

作家 久坂部羊
出版日2021年04月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 小原庄助
(2024/06/12 08:36登録)
タイトルの「MR」とはメディカル・リプレゼンタティブの略。日本語では「医薬情報担当者」と訳される。自社の薬を売り込むため、医師に直接アプローチする営業担当者のことだ。
大阪に本社を置く製薬会社・天保薬品。南大阪エリアの中心となる境営業所では、16人のMRたちが日々医師へのアプローチを続けている。所長の紀尾中正樹は「人のためになる仕事をしたい」という思いからMRを志した正義感の強い人物だ。
MRの日常は大小のトラブルの連続だ。境営業所のMR市橋和己は、抗生剤の処方ミスを認めない開業医の対応に頭を悩ませ、ある病院では消炎鎮痛剤の仕入れがいきなりゼロになってしまう。市橋は理想の現実の狭間で心は揺れる。頼れるチーフMRの池野慶一、本音をずけずけ口にする山田麻弥、変わり者のチーフMRの殿村康彦など、紀尾中のもとには個性豊かなメンバーが集い、ここぞという場面で力を発揮する。特にコミュニケーション能力に難のある殿村は、この物語の名バイプレイヤーだ。
外資系の大手製薬会社タウロス・ジャパンは新薬・グリンガを大々的に売り出すため、紀尾中たちの動きを妨害してくる。学術セミナー会場での、コンプライアンス違反ギリギリの攻防戦など、スリリングな展開から目が離せない。効率や利益が優先される実社会において、理想を持ち続けることの難しさ。紀尾中の抱える葛藤は、多くの人が共感できるのではないか。製薬業界の光と影をリアルに描いた本作は「お仕事小説」としても読み応えがある。

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