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ミステリの祭典

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鬼哭胴事件
狩野俊介シリーズ

作家 太田忠司
出版日2021年10月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 猫サーカス
(2024/06/09 19:03登録)
狩野俊介は引退した名探偵の石神法全の後を継いで探偵事務所の所長となった野上英太郎の助手を務める少年である。狩野俊介は探偵としては早熟であっても人間としては未熟であり、ガラスのような繊細な心の持ち主なのだ。そうした傷つきやすい狩野俊介の受け皿となり、精神面での支えとなるのが語り手となる野上英太郎である。本作で野上英太郎は、佐方康之という人物から、二十七年前に行方不明となった母と妹の行方を捜して欲しいという依頼を受ける。怪しい建築物、謎めいた風習といった古典的な探偵小説の定石に則った展開の中で目を引くのは、もう一人の名探偵だ。俊介と同じく優れた推理力を持ちながら、彼は探偵に対し「謎解き装置」という役割を与えられた存在に過ぎない、という極めて冷淡な姿勢を取っている。その人物に惹かれながらも、狩野俊介は彼の探偵観に別の定義を提示しようと苦闘するのだ。試練のように立ちはだかる大人をどう克服するのか、という教養小説の側面を、探偵の存在意義というジャンル論を重ねる形で描いている点が興味深い。裏を返せえば狩野俊介の苦悩と成長の物語は、謎解き小説の形式と不可分な形で描かれていると言える。

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