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ミステリの祭典

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頭の中の歪み

作家 石川達三
出版日1960年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 斎藤警部
(2024/06/02 09:07登録)
「もし俺が真犯人とわかったら、お前はどうするね。 俺の身代わりに刑務所へ行ってくれるか」

知らず誰かの子を孕んでいた、そして何者かに殺されていた、頭の弱い愛娘への、父の複雑な想い。 しかしその父こそが実は。。(←ネタバレに非ず) 序盤から中盤に差し掛かるころ、東野圭吾を思わす衝撃のツイスト急襲。 それを受け、折り返し地点より一気に闇の中のフーダニットへと物語は舵を切る。 イヤミスともイヤサスとも違う、イヤクライム(蛙亭のイヤクラ..)かと踏んだら、それさえ違ったというわけだ。

「悪魔も恋をする!」   「砂漠の狼ども!」   「死体の叫び!」   「毒を盛ったのは俺だ!」

観念、善意、人間性。 原理主義の爆走が時に面白い小説効果を上げる。 豊かな心理追跡に論理の下支え。 いや、主人公は必ずしも何につけピューリタン一方というわけでもない事が後から分かってくる。 それがまた良い味わい。

「俺は久米子の、そういう人のよさ、徹底的な、まるで植物のような善良さを思うと、涙がながれてたまらなかった。 そのくせ、猫の子を生きたままで穴に埋めてしまうような残酷さをも持っていた」

なかなかに興味深いのが “本当の” 任意出頭シーン。 そこから始まる探偵行為の不思議な面白さったらない。 娘の子の父親候補を絞り込む(≒ or ≠ フーダニット)工程に沁み渡った犯罪糾明のスリルと、芽生える友情と、何気ない風俗素描。 これはいい。 そして、◯◯◯への愛の切なさの蔭に隠れていた◯◯◯への愛の強さが一気に表出する名シーン! 本作のクロージングサードのえもいわれぬ錯綜と思索とミステリ興味の仄甘いキス&ハグ具合には得難い未知の色彩・配色のような魅力が沁み渡っている。 妻や義父や医師たちとの関係も、イヤ要素が強いとは言えサスペンスフルで良い筆致。

ところが、 ええええっっ この、 裁判所にていきなりのバカ結末?! または泣ける結末!? なんにせよ簡単には終われそうにない、熱の籠ったオープンエンディング。 様々な方角へと走る人生上のテーマを提示しながら、 最終的にはエンタテインメントの凄みが要を締めた。 そんな素敵な小説だ。




【ネタバレ】

子の父親、実は実の兄だった、という線は文章の見せる表情からして無さそうだが、、 結末近くまでちょっとその線も疑ってました。 もしそうだったら、ちょっと救いが無さすぎてダメだ。

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