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ミステリの祭典

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ガラスの仮面殺人事件
スーパー&ポテト・シリーズ

作家 辻真先
出版日1991年07月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2024/05/23 06:35登録)
(ネタバレなし)
 都内の経堂にある東西大学。そこの演劇サークル「バブル座」は小規模ながらアマチュア劇団として評価を集め、映画館「吉祥寺シネマ」の場を借りて活動を続けていた。若手ミステリ作家の「ポテト」こと牧薩次は白泉社から依頼された(今でいう)コラボ小説のミステリ「ガラスの仮面殺人事件」を執筆するため、取材の目的で恋人の「スーパー」こと可能キリコを誘って吉祥寺シネマに赴くが、そこで二人を待っていたのは不可解な密室殺人だった。

 91年に白泉社の知り合いの編集者から頼まれた作者が『ガラスの仮面』をモチーフにというか、あるいはコラボというか、で書いた企画ものミステリ。装丁が白泉社の「花とゆめ」コミックスの、セルフパロディチックなのがオシャレである。挿し絵は橘いさぎという方の新規書き下ろし。一部には原作『ガラスの仮面』の図版も流用で使用。

 探偵役はあらすじのとおりにおなじみスーパー&ポテトのコンビで独身時代の後期のものだけど、大詰めの『本格・結婚殺人事件』までは、間にあと二冊あるようである(そのうち読もう)。

 で、本作の読後にAmazonの評を覗くと、本家『ガラスの仮面』にまったく関係ないやんけ! という怒りの声があるが、実際にあんまりモチーフ作品との密着感はないね。20年前に原作本編を一度読んでその後読み返してない読者でも目をつぶってかけそうな程度の、原作『ガラスの仮面』の大設定が登場人物の話題になるくらい。なんかこの辺の薄さはいかにも辻センセイらしい。

<マヤは紫のバラの人をついに追いつめた! しかし次の瞬間、その相手は(以下略)>とか
<楽屋で続発する悪意のある妨害工作。そうよ私は伯爵令嬢……(以下略)>とか、
 そのまんまミステリのネタにしても面白そう? な名シーンが原作にはいくらでもあるんだけどね。
 さすがお忙しい辻先生、原作を読み返すお時間は当時もなかったようで、と軽くイヤミ。

 でまあ、その辺の<趣向が『ガラスの仮面』に沿ってない、別にほかの演劇ネタだっていいよね?>的な不満は最後まで残りましたが、変化球のフーダニットパズラーとしてはちょっとだけメタ的に面白い? ことやってはおります。まあその辺が無ければ、水準作~佳作だけど。

 あと、ミステリ的な興味とはあんまり関係ないけれど、ポテトがさっさと求婚してくれないことに焦れるキリコの描写はちょっと可愛い。リアルタイムで『中学』からずっと、この二人の軌跡を追っかけた読者もこの広い日本のどっかにはきっといたんだろうけど、そういう人は『結婚』の刊行がさぞ感無量だったろうな。そーゆー人生の体験をした人が、ちょっとうらやましく思える(笑・照)。 

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