home

ミステリの祭典

login
沈没船で眠りたい

作家 新馬場新
出版日2023年08月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 みりん
(2024/05/19 02:20登録)
"どれだけ世界が変わっても たったひとつ この感情だけは"
良いキャッチコピーですね。井上真偽『ベーシックインカム』と少し似てる。

テセウスの船・自己同一性がテーマのガールミーツガールSF小説。つい最近、ChatGPTや生成AIなんてものが出てきました。それに伴い、AIを使用して創作活動を行う者が非難される現象がしばしば起こります。このことが「令和のラッダイト運動」だと揶揄されたりしますよね。本作品はその延長線上で、人間の仕事がほとんど機械学習に取って代わられた2044年の近未来のお話。急速に発展したテクノロジーを壊すネオ・ラダイト運動が起こるなか、機械と心中を決意した少女の謎を読み解くミステリーでもあります。326ページ3h48min読了。

人間は細胞の破壊と再生を繰り返すため、同じ状態である瞬間は一秒もありません。それでも昨日の私と今日の私を同一個体であると認識しています。しかし、その体のほとんどが機械になったとしても同じことが言えるでしょうか。私には自信がありません。実際に悠は自己同一性を保てなくなり、身体だけでなく精神も次第に朽ちていきます。テセウスの"船"であれば、そこで終わりですが人間は違います。悠と千鶴を繋ぎ止めている愛情だけは代替不可なのです。ましてやその愛情とは容姿や性格など一時の悠で形成されるものではありません。彼女と過ごした時間、講義、フェス、病室、コンビニ袋を揺らして走った夏の夜、今と地続きにいる歴史が愛を保証するのだと千鶴は言い切ります。

これは埋もれさせてはならないSF小説の傑作ではないでしょうか。『かがみの孤城』で泣けなかった私の目にもまだ涙が数滴残っていたんだと安心させてくれました。一応どんでん返しも2つほどあります。

※作中では『1984年』などの有名SFが多数紹介されます。気になったので(特に下から3つ目!)、詳しい方いたらタイトル教えてください。
「太陽風ヨットが出てくる話」←太陽からの風?
「少女が親友のために冴えたやり方を思いつく話」←たったひとつの冴えたやり方?
「ネズミのアルジャーノンが出てくる話」←アルジャーノンに花束を
「頭の中に埋め込まれた宝石が自我を持つ話」←?
「違う身体に接続されて恋をする女の話」←?
「意固地な猫が夏へと繋がる扉を探す話」←夏への扉

1レコード表示中です 書評