鬼火列車 |
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作家 | 吉岡道夫 |
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出版日 | 1990年07月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | |
(2024/05/10 08:08登録) (ネタバレなし) その年の9月。千葉県市川市の山林から、男性の白骨死体が見つかった。一方、海外のオークションで高額の美術品を見事落札した画廊の主人で37歳の刀根直之は意気揚々と日本に帰るが、そこで彼を待っていたのは十数年前に別れた恋人で今は大スターの歌手・志摩奈津子からのいわくありげな留守電だった。その直後、刀根は奈津子の急死を知るが、その状況にはある不審さが認められた。警視庁捜査一課の面々が奈津子の周辺を洗う一方、刀根は奈津子から書面で託されたある依頼に応えようとするが。 1988年の乱歩賞を、坂本光一の『白色の残像』と最終選考まで争って敗れた作品。同年の同格の候補作には、あの折原作品『倒錯のロンド』(本サイトで現状レビュー数が50の、大メジャー作品)がある。 少し前にネット上やリアルのあちこちで、本書の作者・吉岡道夫の名が、なぜか、たまたま? 目につく。 昭和世代人の自分としてはこの人は、何と言っても1960年代の「少年マガジン」の誌面を飾った青春学園ジュブナイル小説(のちにソノラマ文庫に入った『さいごの番長』とか)の作者である(何はさておき、これが一番~とはいえ自分はその辺のジュブナイルをまともに通読した記憶はない・汗)。 で、ほかにも改めて調べると、特撮怪獣テレビ番組『怪獣王子』のメイン脚本家だったり、晩年には麻雀劇画の原作や小説で名を成したり、実に幅広い活躍をしている。当然のごとく(?)ミステリも何冊か著作があり、それじゃあ……と興味が湧いて、まずはこの辺の今回の本作、乱歩賞がらみの作品から読んでみる。 文章は平易で、登場人物の描写もあっさり気味で読みやすい(しかしこれなんか正に、例の、臣さんが草野作品『死体消失』のレビューでおっしゃった「読みやすいというより、読みごたえない」かもしれない……・汗)。 おどろおどろしく白骨死体が出てくるプロローグで読み手の気を惹き、しかしその件をいったん脇に置いたまま、本筋のスター歌手・奈津子の変死の方に舵を切り返す作劇なんかは、王道なれどちょっとゾクゾク。地味な状況のなか、とある明快な不審から、他殺の疑念が捜査陣や主人公の刀根の内面に生じる外連味のある流れもよい。 ……という感じで昭和のエンターテインメントよみものミステリとしてはそれなりにページをグイグイめくらせるのだが、後半~クライマックスになって話の風呂敷を畳みにかかると、作者が実はあのキャラは……的な種類の意外性を連続して狙うために作品世界が少しずつ狭くなり、一方で、そのうちのいくつかは、いや、当初から見え見えだろ、という不満も生じて来る。 2時間ちょっとの時間をさほど退屈しないで読ませてくれた筆力は評価する(一部のなかなか味のある刑事たちが、捜査に飛び回る描写とか存外に楽しい)けれど、ミステリ的にはあまり光るものはなく……でもないかな? 1988年に書かれて1990年に刊行された長編、そういう時代色を感じさせるトリックはちょっとだけ用意されていた。まあ30年も経った今となっては、昭和晩期の時代を探る風物的な読み方しかできないが。 職人作家の書いた昭和末期の読み物ミステリとしてはそんなに悪くはないけれど、一方であくまでその程度のものと思って楽しむが吉。 ちなみにタイトルの「鬼火」は、ある登場人物の過去の心象にからむもの。「列車」の方は特に、列車とか時刻表とかに関係する訳ではなく、あくまで観念的なレトリックなのだが、あえてこの言葉を使う必然性がほとんど覗けず、なんかハズしている印象。実をいうと、この禍々しいタイトルにも相応に興味を惹かれて、それで手に取った一冊だったんだけどね(笑)。 ジャンルは一応、パズラーにしとくけど、サスペンスにした方がいいかもしれない。フーダニットぽい面もあるが、謎解きの面白さをメインに期待すると、ちょっと拍子抜け。 |