home

ミステリの祭典

login
奇妙な捕虜
ジョン・ベナム大尉

作家 マイケル・ホーム
出版日2024年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2024/05/09 06:37登録)
(ネタバレなし)
 1945年3月。すでに世界大戦の大勢も決しかけたなか「わたし」こと英国陸軍大尉で36歳のジョン・ベナムはドイツ語とフランス語を話せることを理由に、ドイツ軍の捕虜が集う施設「サヴァイナム捕虜収容所」への派遣を指示される。そこでベナムを待っていたのは、奇妙なドイツ軍捕虜パウル・ネムリング中尉との出会いであった。

 1947年の英国作品。
『完全殺人事件』などのブッシュが別名義で書いた、大戦末期の欧州(主に英仏)を舞台にした広義のスパイスリラー。
 広義のと書いたのは、事件どころか物語の概要が不明なホワットダニット作品で、いったいどういうストーリーの中身なのか終盤まで不明なため(その上で、作中人物の視点で諜報・謀略活動の可能性も浮上するから、広義のスパイもの、ということになる)。同時に、つまりは、パズラーとはいわないけれど、たぶんに謎解きものの醍醐味もあるわけで。
 
 巻末の解説には、読みなれたミステリファンの読者なら真相の(中略)を推することは可能かもしれないという主旨の文言があったが、評者などにはなかなか意外な真実であった(ああ、そっち? という面も含めて)。
 
 物語の最初の語り手は冒頭から登場のベナム大尉だが、一人称の話し手(手記の記述者)はのべ数名に交代。その叙述の連鎖の果てに用意されていたサプライズが明らかになるが、途中で作者が「仕掛けてきた」気配もあり……まあ、これはここまで。
(ココでストップするなら、ネタバレにならないだろう。)

 全体に緊張感のある話で、なかなか面白かった。
 実は大ネタは、のちに本邦の新本格系の作家も数十年後にやっている、とある大技の先駆でもあった(これもここまでなら書いていいだろう)。実はこの作品以前にも、どっかに前例があるのかもしれんが。

 テンションだけいうなら、なじみのブッシュ名義のものも含めて、この作者の読んだ作品のなかで一番面白かったかも。ちょっとだけ随所に、戦後数年目にして、戦争批判や文明批判のニュアンスを込めているのも地味なポイントか。

 なおメインキャラのひとり、ジョン・ベナムは、のちにまた再登場して、シリーズキャラクター? になるらしい。
 ホーム名義の作品も、ブッシュ名義の方も、面白そうなのはもうちょっと発掘してほしい。

1レコード表示中です 書評