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ミステリの祭典

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審判の日

作家 ポール・アンダースン
出版日不明
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 人並由真
(2024/04/15 05:06登録)
(ネタバレなし)
 地球人が外宇宙モンワイング星系などの友好的な異星人と接触し、授かった宇宙テクノロジーによって星間航行の技術を飛躍的に発展させた時代。男性クルーのみ300名の乗員とモンワイング星系からの使節タング人のラムリを乗せた宇宙探査船「ベンジャミン・フランクリン号」は、地球時間で3年ぶりに太陽系に帰還した。だが安息なはずの故郷=地球は人為的な謎の超大型破壊兵器の影響で壊滅し、死の星となっていた。月面や宇宙衛星の地球人も死滅し、フランクリン号のクルー、カール・ドンナンたちは、既存の銀河文明のなかに仮寓の居場所を求めながら<地球殺し>の犯人の真実を探ろうとする。一方、宇宙の別の場では、フランクリン号の一年後に地球を出発した女性クルーのみの宇宙船「オイローバ号」がやはり銀河文明のなかで生存の道を求めていた。

 1961年のアメリカ作品。
 日本人にも口当たりの良い本格SFを著することで知られる(という感じの印象が評者などにはある)作家ポール・アンダースンの、有名なSFミステリの名作。

 誰(銀河のどういう属性の異星人)が地球を滅ぼしたのか? また、それはなぜ? という壮大なフーダニット、ホワイダニットがセールスの、短めの長編(ハヤカワSFの銀背で本文190ページちょっと)。だが中身は濃い(叙述は旧作なので、ハイテンポで重厚さはあまりないが)。

『スタートレック』みたいに亜人種のヒューマノイド宇宙人が広大な銀河を席巻し、各自の母星や星系に独自の文明を築いている世界観(宇宙観)はオハナシの舞台としてわかりやすいが、そのなかで前述のスケールの大きいフーダニットの興味とは別に、宇宙の孤児となった二組の地球人たちがどう生きのびるか、そのあれこれの苦闘や異星人との駆け引きも眼目となる。
 その辺のSF的なバランスもかなり多めで、悪い意味でミステリ要素だけに寄りかかったSFミステリではない。ちゃんとSFであり、同時に変化球の設定の本格的なミステリになっている。

 真相については、あれこれここで言うのはもちろん控えるが、全体の4分の3あたりのところで「(中略)」との想念が湧き、そして本当のクライマックスで「ああ……!」と軽く息を呑んだ。そこに持っていくまでの伏線というか、読み手にちゃんと思考が動く布石を張ってあるのもお見事。確かに、そうなんだよな。
 そして真相の発覚のあと、物語世界がやがて迎える未来に向けてその暴かれた真実から連鎖してゆくあたりは、SF文明論の醍醐味(それも結構な風刺の効いた)であって、なるほどこの中身のつまったコンデンス感は並々ならぬものがある。連続テレビドラマ化したら「画」になりそうな名場面も多く、これは噂通りの優秀作、といっていいであろう。
 若干、思っていたよりずっと多層的な構造の作品だったので、そのことに戸惑いを感じないでもないけれど、作者の着地点がこれで正しかったことは納得できる。
 
 実を言うとアンダースン作品、これが初読みなんだけれど、あのキャラクターが客演の『タイム・パトロール』ほか面白そうな作品が題名を知っているだけでも数作あるんだよな(すでにちょっとは購入してあるが)。
 50~60年代の旧作海外SF好きとしては、少しずつ楽しませていただくことにしましょう。

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