地獄のハマーヘッド 諜報員チャールズ・フッド |
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作家 | ジェイムズ・メイオ |
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出版日 | 1968年01月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | |
(2024/04/09 21:41登録) (ネタバレなし) 複数のスパイ組織を遍歴し、現在は英国の特別諜報局の海外支部の任務を請け負う諜報員チャールズ・フッドは、その夜、いわくありげな50歳がらみの男「トゥーキー・テイト」ことアーサー・テイトと関わり合う。何やら機密を秘めて具合の悪そうなテイトをフッドは気に掛けるが、彼はいつの間にか姿を消した。その直後、フッドは任務で、斯界で有名な富豪で絵画コレクターのエスプリトゥ・ロバールに接触。フッドは美術画のディーラーを装い、何やら陰謀の匂いがするロバールの大型ヨット「トライトン号」に潜入するが、やがて彼は自身の生命の危機のなかで、突拍子もない敵の奸計を認めた。 1964年の英国作品。 ポケミスの解説によると、諜報員チャールズ・フッドのシリーズ第四作だそうである。 ポケミスの表紙のタイトルの上に<チャールズ・フッド・シリーズ>と書かれながら、日本で紹介されたのはあとにも先にもこれ一冊のみ(……)。シリーズも何もあったもんじゃない。ネットにもマトモな書評などまったくないし、じゃあどんなんだろう? と、例によって、いささかもの好きな興味が湧いて、100~200円の古書を入手して読んでみる(ちなみに気が付かないうちに、同じ本を二冊買っていた・汗)。 ポケミスの解説では当時のハヤカワの編集者H(太田博=各務三郎?)が、その作風をフレミングやスピレインになぞらえているが、実作を読んでみると、まあ確かにその辺の名前が出てくるのは理解できる。 上流家庭・中流家庭、の意味で、フッドのどこか品格を感じさせる上流性はフレミングっぽいし、一方でカラッとしたしかし相応の残酷バイオレンス活劇の描写などはスピレインのある側面に通じる。 で、肝心のストーリーだが、本作に関してはなかなか悪役ロバールの陰謀の実体が明かされず、敵陣営の周辺をフッドが動き回るなかで美女に出会い、次第に本性を見せてきた敵側がフッドの命を狙う。コアの部分はなかなか見えないものの、物語自体にはほどよく動きがあるので、飽きることはない。 (一方で、とんがったものや新しいものもそうはなかったが。) 敵の陰謀がほぼ判明し、本部の方になんとか通信をはかり、ひと段落したフッドが、ここで一息とばかりに、事件のなかでたまたま出会った美人に連絡をとってデートをするくだりはちょっと笑った。事件がまだ完全解決しないなか、とにもかくにも時間の余裕がいっときできたので、余暇をムダにせずにアバンチュール、という合理的な思考にちょっとだけフッドのキャラクターの個性がのぞける。 悪役ロバールの考えていた陰謀の中身はここではもちろん言わないが、はあ、1960年代の半ば、こういうネタでスパイスリラー一本仕立てたんだね、という意味でそこそこ面白かった。大時代でもしかしたら、マンガチックと切って捨てる人もいるかもしれんが、個人的にはエンターテインメントとしてのセーフライン。 2020年代のいま、60年代のシリーズ活劇スパイもののひとつ、として読むならば、全体としてはそれなりに面白かった。ただまあ、当時のスパイヒーローの売り手市場のなかで、これが日本で特化した反響を得られなかったのもまた仕方がないだろう、とも思う。 シリーズの翻訳の数がドバドバ出ていたら(原書が総数何冊あるのかはまったく知らないが)、マルコ・リンゲくらいのファン層は日本でも築けたかもしれないレベルだとは思うけどね。 なお今回は名前しか出てこなかったけど、フッドには21歳の元女優でアメリカ娘のおきゃんそうな? 秘書ジャッキー・プリーズというのがいるそうで、どうせならその彼女の活躍するハナシ(フッドの事件簿)を先に翻訳紹介してほしかった。そっちが先に紹介されていたら、なんか日本でのウケも違ったかもな~と、当のヒロインに会いもしないうちから、実にテキトーなことを言ってみる(笑)。 評点は6点。まあ悪くはないです。それなりに楽しめた。 最後にタイトルロールの「ハマーヘッド」とは、頭がカナヅチ状のシュモクザメの意味。一応は、暗黒街? でのロバールの別名・異名だと、どっかでちょっとだけ説明されていたような気もするけれど、実際にはこの呼称(コードネーム)は、本文中にほとんど出てこない。地の文での悪役当人の表記は、フツーにみんなロバールである。 この辺のハッタリがハッタリにならないハズしぶりは、もしかしたら本邦でのウケに、悪い方に響いたかも? |