欲望の石 私立探偵ジェイコブ・ロマックス |
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作家 | マイクル・アレグレット |
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出版日 | 1990年04月 |
平均点 | 8.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 8点 | 人並由真 | |
(2024/04/07 21:39登録) (ネタバレなし) コロラド州のデンバー。そこで「わたし」こと、秘書もいない個人経営の私立探偵ジェイコブ(ジェイク)・ロマックスは、年配の同業者ロイド・フォンティーンからもうけ話を持ち掛けられる。フォンティーンの話とは、殺人まで招いた20年前の宝石店からの強盗事件で奪われ、その後も現在まで行方不明の500万ドルの宝石の発見と回収の実働。彼は見つけた宝石を担当の保険会社に返却し、賞金の50万ドルを得るつもだりという。半信半疑でまずは20年前の事件の資料だけ預かったロマックスだが、その直後にフォンティーンが何者かに拷問の末に殺された。その死に心の呵責を覚えるロマックスは、依頼人のいないままに事件に介入。20年前の事件の関係者で、つい最近出所したばかりの人物に接触するが。 1988年のアメリカ作品。 英語の書誌サイトによると1987~1995年までに4本の長編作品に登場した私立探偵ジェイコブ・ロマックス、シリーズの第二弾。日本では第1作『岩場の死』と本作のみ紹介され、2020年代の今ではほとんど忘れられたシリーズのようである。ちなみに評者も今回が、この作者の作品を初読み。 半年~1年前くらいに出先のブックオフの100円棚コーナーで見つけてフリで買った本書(ポケミス)だが、なんかあまり知られてないアメリカの私立探偵小説が読みたくなって、積読の山の中から引っ張り出した。 前述のとおり、かなりマイナーな作品でシリーズで主人公の探偵だが、これが予想以上に拾いもので面白かった。 訳者あとがきで『マルタの鷹』を想起させる宝探しの興味を盛り込んだハードボイルド私立小説とあるが、まさにその通り。良い意味で(お話に勢いを感じるという意味合いで)主人公ロマックスはしょっちゅう殴られるしピンチに陥るし、死体は続々と転がる。過去の因縁がある不仲な警官との駆け引きもある。 そして登場人物のほぼ大半が、地味にキャラクターが立って面白い。 同じく訳者あとがきでロマックスはどちらかというと薄味のキャラクター(並みいるネオハードボイルド時代の私立探偵のなかで、特に記号的な設定や文芸をもたない)と謙遜してあるが、そうでもない。 日本の某・私立探偵(評者の大好きな)を一瞬で想起させる、重い辛い過去は背負っているし、ワイズクラックの連発ぶりは心地よいし、何より一人称一視点の主人公として思考の筋道が非常に円滑に了解できる。とにかくこれが大きく、とても魅力的なキャラクター。 そもそも冒頭、面倒くさそうな年輩の同業者に関わりたくないとホンネを内心で抱きながら、その直後にその惨死が生じると自責を覚えるあたりで、良い意味でわかりやすい、人間臭さとモラルのありようがバランスをとっている。 連続殺人が止まない一方で、目的の宝石に接近してゆく話の転がし方はとても好テンポだったが(後半には、軽い冒険小説というかスリラー的な方向にも向かう)、終盤で明かされる犯人の意外性も少なくとも評者などにはなかなか響いた(まあこの辺は、人によってムニャムニャ……かもしれないが)。ロマックスと某キャラでの、最終章でのやりとりなどもとてもいい。 今さらながらに二冊で翻訳が止まったのは惜しかったな……というのは、あまりに無責任だよな(汗)。30年以上、読まずに放っておいて話題にもしない、注目も留意もしなくて、ここで実作を読んで現物はオモシロイと騒ぐんだから。俺が本作の翻訳者や担当の編集者だったら、そんなこともっと早く言ってくれ! とボヤキたくなるだろう。 ちなみに手元に、1980年代の当時の現在形の海外もの翻訳ミステリの<レギュラー探偵>たちのガイドブック「現代の探偵・スパイ名鑑」(吉田友美著・廣済堂・1991年)という地味に良書があるが、名探偵たちやスパイエージェントたちが名字の五十音順に並べられているので、ロマックスもちゃんと最後の方に紹介されている。日本でのまとまったロマックスの記述って、せいぜいこの二ページくらい? 逆に言えば、マイナーな未読の翻訳ミステリのなかで、まだまだ未知の面白い作品や魅力的なレギュラーキャラクターに出会える可能性が潜在するわけだ。ただしまあ、そんなマイナーな作家&探偵なので、シリーズ刊行が打ち止めになってフラストレーションを覚える率も高いわけだが(汗・涙)。 うん、やっぱり海外ミステリの大海は、どこまでも限りなく広い。 |