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ミステリの祭典

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フィッツジェラルドをめざした男
文筆家探偵スチュワート・ホーグ(ホーギー)&愛犬ルル

作家 デイヴィッド・ハンドラー
出版日1992年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2024/04/02 04:24登録)
(ネタバレなし)
 その年の春のニューヨーク。「僕」こと30代末の文筆家スチュワート・ホーグ(ホーギー)は、かつて処女長編が好評でベストセラーになったものの、二作目が不発、愛妻だった女優のメリリー・ナッシュとも離婚し、いまはバセットハウンドの愛犬ルルを脇に、ゴーストライターとして著名人の「自伝」を執筆する仕事をしている。そんなホーギーは今回、文壇で<フィッツジェラルドの再来>との異名をとる、23歳のハンサムな若手人気作家キャメロン(キャム)・ノイエスの半生をまとめるように依頼された。キャムは先輩作家のホーギーにひとかたならぬ敬意をはらい、ホーギーも彼に友情めいた思いを感じ始めるものの、ことあらば才人としての? 奇矯に走るキャムの言動に驚かされることになる。やがてそんな彼らの周囲で出版関係者の命が失われた。

 1991年のアメリカ作品。
 作家探偵ホーギーと愛犬ルル・シリーズの第3弾。
 同年度のMWAペーパーバック・オリジナル長編作品賞の受賞作。

 作者ハンドラーはこれが初読み。
 Amazonのデータをざっと確認すると、我が国でも90~2012年までに十数冊の翻訳が出ており、評者も日本で(の正確な反響や刊行数は把握していないものの)それなり~それ以上に人気があるらしいことはなんとなく感じてはいた。 とはいえ本サイトではこの作者の作品の評は、猫サーカスさんの6年前のレビューがひとつあるだけ。そして、本作を含めて数冊以上翻訳が出ている、日本でもそれなりに人気がある(あった)らしいホーギーシリーズの書評は、まだひとつもない!?
 ……じゃあ、ということで、ブックオフの100円棚で出会った本作を「MWAオリジナルペーパーバック大賞受賞」作品という、裏表紙の煽り文句にも背中を押されて読んでみる。

 本文430ページ以上の紙幅はそれなりにボリューム感があり、さすがに一日では読めなかったが、それでもお話は小気味よく進み、ネットでの作者のウワサ通り、確かにキャラクターの人物造形はメインキャラから脇役に至るまでかなりうまい。
 特に、ネタバレにならない(そうしない)つもりで書いておくけど、主人公ホーギーと手のかかる弟分格のメインキャラ、キャムの関係性は、80~90年代のニューヨークの場で描かれる新時代のマーロウとテリー・レノックスみたいな距離感を思わせた。
 あとホーギーはそれなり(以上)に複数のヒロインとからむ。最終的に誰がメインヒロインになるかはここでは興を削がないようにヒミツだが、その当該のヒロインがすんごくステキ。ホーギーと彼女との関係はこのあと(シリーズ次作以降)、どうなるんだろうなあ。ああ、作者の手の裡にハメられたかもしれんな(笑)。

 しかしサイコーと思ったのは、かなり意外な真犯人の判明と同時に、そこで見えて来る(中略)な文芸性と、あのクラシックミステリの古典的トリック(というかギミック)の延長にある仕掛けで、これにはう~ん、と唸らされた。いや、ペーパーバック賞部門とはいえ、MWA歴代長編賞の一角に座るだけのことはある。純粋に都会派ミステリとして面白い(純粋・緻密なフーダニットと厳密に保証できるかというと心もとないが、少なくともあれこれ伏線も用意はしてあった)。

 あと本作では、ゴーストライターで関係者に取材する立場の主人公という設定ゆえ、小説の一部は<録音される対談インタビュー>の形式で語られる。
 それゆえ、主人公ホーギーを軸にして段々と変遷してゆくキャラクター間の関係が、メリハリの効いた叙述で描かれるのもステキ。

 たった一冊読んだだけでアレコレモノを言うのも誠に不遜だが、これが基調の作風なら、ハンドラー、たしかに達者で、東西で読者の支持を得ておかしくないレベルの作家だとは思う。
 
 ちょっと後悔してるのは、シリーズの第一作目から(現在の時点では)翻訳があったのに、それに気づかず第3作目から読んじゃったこと。
 ただまぁつまみ食いでも特にまったく問題はなく、作品そのものは十分にアタリだったので、よしとしよう。またそのうち、このシリーズは読んでみたい(次は第一作目から、ね)。
 
 改めて思うけれど、海外ミステリの大海は、とめどもなく広いよ(笑)。
 評点は8点に近いこの点数で。

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