home

ミステリの祭典

login
乙女の祈り

作家 ジョーン・フレミング
出版日1958年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2024/03/30 21:05登録)
(ネタバレなし)
 ロンドンのセント・ジェームズ街で、元軍人の家長を失ったメイドン家の未亡人とその娘「アナスタシア」ことスタッシィ・メイドン嬢は、使用人の夫婦を雇いながら、長年、慎ましく暮らしていた。だがそのメイドン夫人が数週間前に死亡。以前から近所の慈善団体の事務員として働いており、同時に婚期を逃したオールドミスのメイドン嬢は、広すぎる屋敷の売却を考える。そんなメイドン嬢のことを、メイドン夫人が顧客だった近所の仕立て屋の中年男ジョン・トイラーが何となく気にかけていた。メイドン嬢は不動産の周回業者に屋敷の売却の世話を頼みに行くが、そこで彼女はハンサムな混血の中年男「アラディン」ことブライアン・エハーンに遭遇。依頼を受けてメイドン家を訪れたアラディンは、メイドン嬢が予想もしていなかったことを口にした。

 1957年の英国作品。
 旧クライムクラブの未入手、未読作品が残りあと数冊レベルに迫ったので、ちょっとプレミアだったが、箱付き・帯付きということでタマのゼータクをして、ウン千円でネットで古書を購入した。

 で、箱の背表紙部分の帯の背に「アラディン?」とだけ書いてあり、当然、本作のメインキャラの一人となる中年男アラディンことブライアンのことだが、読者視点で言うと「密室の謎!」とか「甦る死者!」とかのミステリファンの心に響くようなキャッチーな文句ならともかく、いきなり「アラディン?」と言われてもなあ……という感じである(汗)。
(さすがクロード・アヴリーヌの『ブロの二重の死』の創元文庫版の帯の背にただひとこと「傑作!」と書いて済ませて、当時のミステリファンを唖然とさせた東京創元社。同社の80年代のトンチンカンな惹句のDNAは、すでに50年代から仕込まれていた・笑)

 お話のネタはもう、全体のストーリーの4分の1も読めば、大半の海外ミステリファン(ただしちょっとは旧作クラシック全般に関心のあるヒト)なら絶対に「ああ、あの有名な名作短編ミステリの長編版ね……」と気が付くと思うが、ここではソレでもあえて、その当該の短編ミステリの題名は伏せておく。
(ちなみに小林信彦の「地獄の読書録」を読むと、ズバリ、その短編の名を出し、本作がその系譜の作品だと堂々と明かした上で、これは秀作だったとホメてある。ネタバレ書評には基本反対な自分だが、今回に限ってはまあ、よっぽど海外ミステリを知らない人じゃなきゃ、すぐにわかるとも思うので、あんまり小林信彦を責める気にはならない。)

 英国のドライユーモア(いささかブラック味込み)に彩られたストーリーがハイテンポで転がり、二百数十ページの本文はあっという間に読了。全体的には面白かったものの、一方でこれがアノ名作短編の今風(1950年代だが)の長編版で、さらにその上で最後はちゃんとエンターテインメントになるんだよね? と思うと、大方の流れは読めてしまうところもあり、で、結果は……ムニャムニャ。

 佳作以上にはなっているけれど、旧クライムクラブに執着のある自分みたいな偏向ファンじゃなければ、大枚の古書価は払うことはないでしょう。
 図書館で出会ったり、もしも裸本で安く買えるとかの機会に遭遇したなら、手にとってみてもいいかとも思うけれど。

1レコード表示中です 書評