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ミステリの祭典

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奇っ怪建築見聞
日本怪奇幻想紀行 六之巻

作家 評論・エッセイ
出版日2001年03月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2024/03/23 11:07登録)
「三角館の恐怖」の主人公は実は「三角館」と名付けられた建築そのものだ、ということに乱歩が気が付いている...というのを面白く感じたことから、日本の怪建築についてコレクションした本がないか?と見ていたら、こんな本がある。
確かにミステリの「館」というもの自体に、年少の評者も憧れをもって、ミステリの挿絵で入っている平面図を参考に、自分の「夢の家」を夢想したことがあったりもしたわけだ。もちろんこれには戦前の「洋館」に対する夢と憧れが、戦前のミステリに反映していることの証左でもあるわけで、「新青年」の「悪夢の家」は言うまでもなく「黒死館」に結実する。
逆にいわゆる「新本格」で「斜め屋敷」やら「十角館」やら、改めて「怪建築」が取り上げられたことには、80年代の建築探偵やら考現学・路上観察学会などの都市論の流れが影響していたのだろう。そう捉えたときに、戦前戦後の怪建築を題材にしたこのムックはちょっとした「ミステリの参考書」にもなってくる。

でこのムックで扱われる怪建築は...

1. 二笑亭
いきなり御大登場。水木しげるがマンガで戦前の怪建築の代名詞の二笑亭を解説。
2. 会津栄螺堂
会津に現存する、江戸時代に作られた螺旋形の塔。内部を二重らせんの階段で昇降できる。
3. 岩窟ホテル高壮館
比企郡で廃墟にはなっているが現存する、凝灰岩の絶壁を明治時代に農民が掘りぬいて作ったホテルのような建築。
4. 目黒雅叙園
「昭和の竜宮城」と言われたキッチュ建築。まあこの手のものは飛田の百番とか、いろいろありそう。
5. 三角屋敷
リアル「三角館」。三角敷地での歪んだ三角や台形の建築は珍しくはないが、幽霊屋敷として怪談の舞台となったマンションが、都内某所にあるそうな。実際にここに住んだ小説家霜島ケイさんが体験談を語る。加門七海の「怪談徒然草」の元ネタとして有名。
6. 京都太秦のオールプラスチックハウス
徳力彦之助という漆芸家が1950年代に作った全プラスチック製の半透明の家。プラステチックハウスは現存しないが、母屋にあたる洋館は現存。これは強烈にオシャレ。

などなど、日本にも「怪建築」はいろいろ実在する。アウトサイダーアートに類するものもあるが、ミステリと怪建築が共有する「夢」を正面から扱ったムックとして、紹介したい。

考えてみれば、乱歩の「人間椅子」も「鏡地獄」も、ミニマムな建築と捉えることもできるわけだし、「屋根裏」にも反-建築の夢が詰まっている、と考えたら、面白い視点にもなるだろうなあ。

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