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ミステリの祭典

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悪魔がねらっている

作家 山崎忠昭
出版日1975年11月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2024/03/21 18:21登録)
(ネタバレなし)
「大和学園」高等部の二年生、剣道部員の成宮洋次は、路上で不良にまとわりつかれる「ロザリオ女学院」一年生の美少女、境まゆみを救う。その縁で親しくなる若者たちだが、かねてより生来の霊感に優れ、幼少時から周辺の凶事などを予知してきた洋次は、悪夢でまゆみの危機を察知した。やがて堺家のまゆみに異変が生じ、洋次を応援する祖母は成宮家の血筋に秘められた陰陽師と剣士の資質を語り、同時に孫とともに怪事に立ち向かう。洋次はいとこの、城北大学で超心理学を研究する助教授、見上英樹の応援を願うが、当人は現代科学の理屈で安易なオカルトの存在を否定した。だがそんな間にも、まゆみを狙う黒幕の正体=国際的サタニスト集団「地獄の火クラブ」は暗躍を進行させていた。

 ソノラマ文庫版で読了。元版は同じ朝日ソノラマのサンヤング叢書から、文庫の数年前に出たジュブナイル怪奇小説だが、そっちはAmazonには現状で登録がない(そもそもサンヤングって、めったにAmazonに登録がナイね)。
 少年時代から、ヌードらしい肩が見える表紙の美少女イラスト(元版も文庫版も共通)に妖しいエロさをなんとなく感じていてうっすら興味を持ち続けていた(笑・汗)が、中味の小説の方は、オヤジ~ジジイの今になってからようやく読んだ。
 
 作者、山崎忠昭は1960年代から90年代にかけて、テレビアニメ『(旧)ルパン三世』やら『デビルマン』やら『聖闘士星矢』やらで活躍、ほかに『ゲバゲバ90分』や特撮番組『光速エスパー』『恐怖劇場アンバランス』などを執筆したベテランシナリオ作家。 しかしこのサイトの人々には、何をおいても、あの『殺人狂時代』や同じく都筑の作品を原作にした『危いことなら銭になる』などの広義のミステリ映画のシナリオ(いずれも合作)で、接点があるハズ。
 ちなみにWikipediaを確認すると『あなたはタバコがやめられる』という内容未詳の番組を1964年に担当しているようで、同番組の中身はよく知らないが、もしかしたらあのハーバート・ブリーンとも縁があるのかネ(笑)?
 さらにもともと山崎は生粋のミステリ・SFファンで、小鷹や仁賀などとともにワセダ・ミステリクラブの創設にも参加。そのくらいマニアな人であり、まあ御当人の詳しい事はWikipediaとかを見てくれ、という感じである。

 で、本作『悪魔がねらっている』だが、執筆当時にあの澁澤龍彦(実は評者はそんなによく知らないが)の著作を参照、しかも澁澤御当人に参考にさせていただいて創作する旨の了解をとった上で著述するという、かなりマジメなポジションで書かれている。

 逆に言えば専門書からの引き写しで、主題となるサタニズムやそれに対抗する聖なる勢力(バラ十字団など)の叙述に関しては、作者独自の見識は薄いんだろうな? という雰囲気もなんとなく感じないでもないが、その辺の厳密なことはそっちのオカルト学術についてほとんどシロートのこっちがどーこー言うべきではない。識者の判断をいずれこのサイトなどで待つばかりである。

 遠隔魔術攻撃の魔手が迫り、主人公の洋次側の応援者であるばあちゃん(血筋的にそれなりの霊能力者)が前に出て来る一方、本来は頼りになる兄貴分ポジションであろういとこの英樹が、意外にツッコミしまくるジョーカーキャラなのは意表をついてちょっと面白い。
(そのあと、洋次の応援役としてさらに大物キャラが出てくるのは、主人公側の緊張感を削いでしまうという意味で、やや悪手だった気もしないでもないが。)

 昭和ジュブナイル的な大雑把さと雑さも感じないでもないが、クライマックスの某メインキャラの<反撃>の描写など、ちょっと読み手のスキをつく感じでその辺はソコソコよろしい。とはいえ、終盤の方はややあっけない(ある種の演出効果かともとれるが)。

 21世紀に改めて掘り起こして、眠っていた秀作とか騒ぐような種類の作品じゃ絶対にないけれど、こういうオカルトアクションジュブナイル小説の系譜を探るうえでは、ちょっと目を通しておいた方がいい一冊かもしれない。

 しかし<木刀を持った少年剣士の主人公と、支援する超人キャラ「ドクター~」>って、後年のソノラマ文庫の超ドA級重要作品を想起させる記号だな(笑)。まさかあっちは、この作品の本家取り、だったのか?

 最後に、一応ジャンルは「ホラー」に登録したが、正確には純然たるアクションホラー。ある意味で、近しいけれど別もの。豆腐と油揚げくらい違う。

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