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ミステリの祭典

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肌色の仮面

作家 高木彬光
出版日1975年07月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2024/02/29 19:10登録)
(ネタバレなし)
 昭和30年代の東京。「水橋建設」社長の甥で建築技術者・鶴橋龍次。その美貌の若妻・澄子は、一般投資家として日々の相場を張っていた。澄子の実家の父・近藤則彦博士は「東邦大学」の冶金学者(合金の研究家)で、その開発中の新金属「γ(ガンマ)合金」には鉄鋼業界、建築業界でも注目が集まり、その完成の情報は株式市場にも大きな影響を与えるのは必至だった。澄子と取引する「丸高証券」の外交員・野崎政夫のかつての部下で、今は私立探偵事務所を営む青年・富岡俊介は、さる筋から依頼を受けた産業スパイとしてγ合金の機密を狙う。一方で研究の機密を守る近藤博士は、株の売り買いの「材料」を求める娘の澄子にさえ情報を与えなかったが、そんな澄子を含む周囲にも俊介は接触し、情報を漁ろうとした。だがやがて、とある予期せぬ事件が起きる。
 
 昭和三十年代の半ば、当時の人気女優の東紀江からの依頼(仲介)で、作者がフジテレビの<よろめきスリラー>用に提供したストーリー案を、メディアミックスで原作者自ら小説化した作品(小説版は雑誌「週刊大衆」に連載)。
 もちろん構想も小説も作者・高木彬光の頭から生まれたオリジナル作品だが、企画の経緯を厳密に考えるなら、原作者自らの手によるセルフノベライズ、ともいえるかもしれない。そんな意味で高木作品の中では、かなり異色の一編のハズである。

 設定は完全なノンシリーズもので、多数の人間が入り乱れる群像劇。メインキャラも即答しにくいが、形質的にはやはり澄子と俊介が主役で、この二人の<よろめき>ものになる(ただしまったくエロくないし、扇情さもほとんどない)。

 相場・投資などは作者お得意の主題だが、さらに今回は合金開発の冶金技術の世界をテーマに採取。
 なんとなく社会派ものをやってもいいような雰囲気の方向に行きかけるが、結局は作者が正直で、実はそういうの、あんまり興味ないんだよね、という感じにまとまる。少なくとも業界の体質的な構造や人間関係の方向で社会悪を叫ぶような作品では決してない(笑)。

 前半で出された謎(ここでは具体的に書かない)がかなりのちのちまで引っ張られ、ページ数が残り少なくなったところで<意外な犯人>が判明。
 <そっちの方向>で決着するなら、ちょ~っとだけ読者を振り回し過ぎじゃないですか? 高木センセという感慨もある。まあ100%純粋なフーダニットじゃなくて、犯人当て要素もある人間関係スリラーもの(事件もの)、という作りなので、まあいいか。
 なかなか面白かったけど、良くも悪くもお話を右往左往にドライブさせすぎた感もあり、秀作・優秀作とホメきるにはちょっと微妙。ただし読みごたえはあり、この時期の作者のある種の円熟感は認める。
 7点に近いこの評点で。

 最後に、今回は、どうせなら元版で読もうとカッパ・ノベルス版を古書で安く買ったけど、巻末の作者あとがきにはくだんのテレビ版のキャスティング表までついていて、ちょっと儲けた気になった。俊介のキャストは、「地獄車」車周作&天神の小六&「娘よ、男は選べ!!」の高松英郎。高松は笹沢の『死人狩り』の最初のテレビドラマ版の主演もやってるし、そっちもこっちも観てみたいが、なかなか観る機会はないだろうな。まあ機会があればぜひ。

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