夢伝い |
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作家 | 宇佐美まこと |
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出版日 | 2022年05月 |
平均点 | 5.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 5点 | びーじぇー | |
(2024/02/24 21:12登録) 書けなくなった作家が打ち明けた驚くべき理由と、その裏を取ろうとした編集者が知る恐るべき真実「夢伝い」。復讐を遂げたばかりの男が向かった地元。廃村になった地で体験する不可解な現象と、直面する忘れたはずの過去「沈下橋渡ろ」。複数の人物が語る「ある教育ママの事故死」、「大学生カップル殺人事件」。そこから仄めかされる、ある心霊スポットで起こった怪事「愛と見分けがつかない」。末期の父に聞かされた亡き母との馴れ初め。母の過去を確かめに向かった先には「母の自画像」。など全十一編の短編集。 どの短編でも人間が書かれている。どこにでもいる、ありふれた人間の姿が、克明に残酷なまでに丁寧に浮き彫りされている。自分の罪は記憶化から消しておきながら、他人から受けた仕打ちはいつまでも忘れない。解決すべき人間関係の問題から目を背け、歪みだらけの日々を過ごす。 そして、どの短編でも怪現象が書かれる。人が怪現象を呼んだのか。あるいは怪現象が人を招くのか。いずれにせよ、人はそれを通じて己の本心や、捨て去ったはずの過去を突き付けられる。それは恐怖であると同時に救いだ。理屈に合わない生き方をする大多数の人間にとって、闇こそが救いなのかもしれない。 |