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ミステリの祭典

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昭和ジュラシック 怪獣狂騒曲

作家 神永英司
出版日2023年10月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2024/02/24 05:01登録)
(ネタバレなし)
 昭和29年の初の本格特撮怪獣映画『ゴゾラ』によって幕を開けた国産怪獣映画ジャンルが、映画業界の衰退とテレビ界の活性化のなかで、大熱気の「第一次怪獣ブーム」を迎えようとしているもう一つの日本の昭和41年。東西映画所属の若手シナリオライター・山本淳はプロデューサーの牛原進から、怪獣というキャラクターがマーチャンダイジングで大きな利益をあげることを前提に新たな映画怪獣スターを生み出すように指示を受けた。淳とスタッフたちは現実の東北で、昨今、巨大怪獣の目撃譚が話題になっていることに着目。取材とロケハンを兼ねて現地に向かうが、そこに土地の伝説の怪獣を思わせる巨獣ジメラが出現した。一方、日本の防衛庁は米軍と秘密裏に巨大機動兵器の開発を進め、そのプロジェクトのなかには淳の従弟である山本猛も参加していた。
 
 現実(我々のいる世界)の第一次怪獣ブームの立役者、その一角だった怪獣ソフトビニール人形の販売元「マルサン(マルザン)商会」の六代目代表である著書が執筆した、メタ的要素のある怪獣SF&映画業界もの小説。
 『ゴジラ』→「ゴゾラ」、「ガメラ」→「ガメゴン」などのように現実の固有名詞はすぐわかる別ものに置換されたパラレルワールド世界が舞台で、物語の全域は一応は全部がこの物語世界のなかに収まっている(要はメタ的といっても、物語が次元や時空を超えて読者の世界とダイレクトにリンクしたりすることはない)。

 物語のコンセプトは、まず怪獣小説が書きたい、それも昭和っぽいもの、だけど後年に昭和を時代設定にしたノベライズなどはどうも作者から見て何か違うので、だったら、まんま第一次怪獣ブームだった1966年の日本に、本当に怪獣が出現したら、どうなるか、という構想らしい。
 でまあ、その着想とチャレンジ心自体は誠に結構なのだが、趣向優先で小説メディアでの場で要求される細部のリアリティの積み重ねに書き手が無頓着なため、できたものは概して大味。
 前半は『バラン』みたいな怪獣もの風に話が進み、途中から巨大ロボット地球防衛部隊みたな組織の活躍にも比重が移り、α号やマーカライト・ファープのかわりに巨大ロボを繰り出す『地球防衛軍』みたいな流れになるが、もう一方のメインプロットである映画業界の方とあわせて、いまいち全体のこなれがよくない。
 ただまあ、現実に登場してしまった巨大怪獣ジメラをそのまま商品化しても版権的な利潤が得られないので、やはり当初のとおり映画オリジナルの怪獣を生み出さねばならないというあたりには笑った。しごく大雑把ではあるものの、正に本作の根幹には、そんな経済の論理がある。

 全体に、ああ、この固有名詞は、あるいはこの話題は、現実の怪獣ブームのなかでのアレだな、と笑って軽く読めばいい作品だけど、一方でたしかに、現実の自分の少年時代、『怪獣大戦争』や『ガメラ対バルゴン』の封切りやテレビ放映を観ていたあの時代に、実際にネス湖でネッシーが捕まっていたらなあ……世の中はさらにさらに楽しかったろうなあ……的な感慨を改めて感じさせてくれる、良くも悪くも願望充足的な一冊であるのも事実。
 あんまりズルズルとイイオトナが耽溺するのはアレだけど、まあこういうのもタマにならいいんじゃないでしょうか。
 最終的にはね、こういうものって、いろんなセンスの部分で勝負する作品だとは思うけど。

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