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ミステリの祭典

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殺人狂株式会社

作家 若桜木虔
出版日1988年03月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2024/02/21 18:30登録)
(ネタバレなし)
 警視庁捜査一課の青年刑事・工藤裕之は、上司の石岡一仁警視から奇妙な指示を受ける。それは港区に在する株式会社「殺人狂」の内偵で、同社は各方面に殺人を代行するとのダイレクトメールを郵送の文書で送っていた。工藤が同社に赴くと、代表と称する妙齢の美女・土門江利子が現れ、彼女は、人道的に正当な理由さえ確認できれば一件1000万円の報酬で報復殺人を行なっている、依頼人が困窮している場合は保険金の操作で報酬をひねりだすとうそぶいた。工藤は直接の逮捕もできない一方、江利子にひそかに一目ぼれしてしまうが、やがて「殺人狂」の犯罪とおぼしき奇妙な変死事件が発生する。

 トータルとしては、若桜木センセ、天藤真あたりのオフビートな(そしてうっすらダークな)ユーモアミステリ路線を狙ったか? という感じ。
 全十二章の各章の見出しがいずれも「殺人狂~」で始まるちょっとしたお遊びなんかは、クイーンの国名シリーズっぽい。

「殺人狂」組織とその主軸らしい人物・江利子の情報は、捜査本部が共有。犯罪を計画・実行・演出する「殺人狂」と捜査陣との対決の構図になり、その上でいかにアリバイなどの壁を崩せるのか、どの実行犯がどのように実際の犯行を為したのか、のミステリ的な興味が築かれかける。ここらはちょっと謎解きの要素が前に出て、なかなか面白い。

 ただまあ、最後まで読むと割とありがちな解法で決着されるし、それ以前に対極する両陣営のうち、捜査陣の側からしかほとんど描かないものだからイマイチ話も盛り上がらない。こういうのって、悪の主人公側の描写もそれなりに(肝心の部分はギリギリまでシークレットのまま)叙述を連ねて、対決ものを期待する読者の緊張感を煽るのがセオリーだと思うのだが。

 それなりの意気込みは感じるが、最終的にやっぱりいまひとつホンモノになりきれなかったB級半作品、という印象。ただ作者が意外に「書ける」作家だという認識は、改めて感じた。この評点の上の方で。

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