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ミステリの祭典

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警官ギャング

作家 ドナルド・E・ウェストレイク
出版日不明
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2024/02/18 16:56登録)
(ネタバレなし)
 マンハッタン第15分署の「わたし」こと、34歳の三級刑事トム・ガリティー。そして「おれ」ことパトロール警官で32歳のジョー・ルーミス。住宅街で隣人同士であり、ともに家族ぐるみの交流がある二人は、NY市警中に汚職が蔓延し、人間の暗い面、哀しい面を直視する日々の職務にうっすらと疲れを感じていた。そんななか、トムは偽警官の強盗犯罪に着目し、自分たち本職が<ニセ・偽警官>の強盗を演じて行えば誰よりも<本物らしい>犯行ができるのではと考える。折しも署内ではマフィアの大物アンソニー(トニー)・ヴィガノが一時的に逮捕され、保釈されたが、トムはそれを縁にマフィアを故買先に選び、彼らの求める物品を市内から強盗しようと思案した。

 1972年のアメリカ作品。
 1974年の邦訳刊行時、少年時代にリアルタイムで読んでいるが、しばらく前にネットオークションのノベルズまとめ買いでもう一冊手に入ったので、それを機会に再読してみようという気になる。ウエストレイクの邦訳のなかでもレア本の部類のようで、Twitter(X)を覗くと捜していたとか、見つかって嬉しい、とかの声もチラホラあるが、本サイトでもまだレビューはない。

 もともとはユナイト映画から、オリジナル映画の原案を求められたウェストレイクがプロットを提供したストーリーだったが、原書の版元エヴァンス社の編集が、だったらメデイアミックスで小説化して刊行しよう、と声をかけ、原案者自身がその小説版を書いた。これが本作で、要は映画の企画先行という意味では、フレミングの『サンダーボール作戦』などと似通う面もある。
 ちなみに評者は、映画はいまだ未見。配信とか映像ソフトとかで、どっかで日本語で観られるのだろうか? 気づいたらあまり意識したことなかった。

 なお本作は邦訳刊行当時、SRの会のその年・1974年度の海外ミステリ・年間ベスト(75年の春に実行)のベスト5内にもランクイン。少年時代の評者はフツーに面白く読んだ覚えがあるが、SRの会誌「SRマンスリー」の当時の年間ベストの総評で、「ウェストレイクの中では決してできがよくない作品なのに、ちゃんとベスト入り。やはり概して翻訳作品のレベルは、国内作品より高いのだ!」という主旨のコメントがあり、はて、これで出来が悪いのかな? とも考えたりしていた(まあ、当時の自分は当然ながら若年だったこともあって、まだウェストレイク名義の作品はそんなに読んでなかったが)。

 で、改めて再読してみると、う~ん。当時のSRのくだんの会員氏の感慨も、今さらながらにわからないでもないなあ……という実感。
 いや決して出来が悪いとは思わないし、フツーに二時間ちょっと楽しめるのだが、なにせもともとが二時間前後の映画用のプロット。意識的にお話をあまり広げず、シンプルにまとめた感じが強い。ギャグやユーモアも全編にうっすらとあるけど、作者のノリの良いときの過剰な暴走感はほとんどないし。
 主人公コンビの一人称の切り替え、さらに三人称の混交、など、小説的な技巧はそこそこ感じるんだけどね。

 本作はある意味で、作者(映画の原作原案者)自身による公式ノベライズという立場で書かれた一冊ゆえ、小説は小説で別もの、的にできなかった面もあるのかとも考えた。
 これが他人の創案、創作のプロットや別人の原作の映画をあらためてさらに別の作家がノベライズするなら、編集者や版権元ほか関係者の許可の範囲で、かなり大幅にいじくることもあったのじゃないか、とも考えたりする。そういう場合の方が、小説の書き手が「小説は小説で別の面白さを感じさせてやる」と気概を見せることも多いでしょ?

 よく言えばコンデンスにまとまった、悪く言えば曲のない話で、小説単品を読んでの感想を語れば、トータルとしては佳作の上、という感じ。今後古書にそれなりのお金を払う人は、そのつもりで購読されるのがよいと思う(一方で、決してつまらない作品でも凡作でもなく、フツーにそこそこ楽しめはするが)。

 ちなみに劇中で被害にあうNY市内の大手商会の要人の名が「レイモンド・イーストプール」。当時、翻訳が出る前にミステリマガジンの連載で、原書を先に読んだ(映画をすぐ観た、だったかな?)アメリカ在住時の木村二郎さんが、「ウェストレイク(西の湖)」のセルフパロデイのネーミング(東の沼)だと大笑いしていたのを思い出したが、今回改めて読んで、商会そのものの名前が「パーカー、トビン、イーストプール商会」なのに気づいてさらに笑った。「悪党パーカー」や「刑事くずれミッチ・トビン」ファンには説明は不要であろう。その辺の地口ギャグは、さすがウェストレイク。それっぽい。 

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