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ミステリの祭典

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タリー家の呪い

作家 ウイリアム・H・ハラハン
出版日1977年08月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2024/01/24 06:46登録)
(ネタバレなし)
 その年の2月のニューヨーク。古い洋館を改装したアパート「プラヴォート・ハウス」は老朽化のため、近日中に取り壊されることが決定。入居者の大半はすでに次の転居先を決め、みなが住み慣れたアパートや入居者仲間との別れを惜しんでいた。そんななか入居者の一人で、妻と離婚したハンサムな青年編集者ピーター(ピート)・リチャードソンは、異常な感覚に悩まされ始める。一方、まったく別の場で、訪米した英国の弁護士マシュー・ウィローは17世紀の人物ジョーゼフ・タリーの家系を、仔細に執拗に追跡し始めた……。

 1974年のアメリカ作品。
 作者ハラハンは、1980年前後にミステリファンだった世代人には、MWA最優秀長編賞を取ったスパイ小説『亡命詩人、雨に消ゆ』(77年)の方でちょっとは知られていたが、21世紀の現在ではまるっきり忘れられてしまった作家のようだ。本サイトにも評者が最初に登録するまで、作者名もその著作名も影も形もなかった。一応、日本では長編が4冊も翻訳されているのだが。
(と言いつつ、評者もその『亡命詩人』と今回の本作、その二冊しか読んでないが~汗~。)
 
 で、前述の通り純然たるエスピオナージだった『亡命詩人』と異なり、本作は完全な都会派モダンホラー。
 少ない邦訳数ながらジャンルが極端に異なる作家ということに興味が湧き、以前から本作も読んでみたいと思っていたが、今回ようやっと実現した。
(しかし主人公の名前がピート・リチャードソンって……『大空魔竜ガイキング』か?)
 
 物語の大筋は、二つの流れを交互に追う感じで展開。
 ひとつは「プラヴォート・ハウス」を舞台に、主人公の片方リチャードソンを軸とした群像劇だが、決して派手なショッカー系ではないものの、じわじわとゾクゾク感を高める語り口で話が進む。
 もうひとつはアメリカの各地を転々としながら17世紀から現代へと至る? タリー家の系図を追いかけていく弁護士ウィローの話だが、その目的は終盤まで未詳なまま展開。しかしこちらも語り口のうまさが効果を上げて、訳がわからないままにグイグイ読み手を惹きつける。
(こっちの展開はアンブラーの優秀作『シルマー家の遺産』などを思わせた。)
 
 それで中盤、前者の方でいきなりド級のショックが用意されるが、結局、これはまあ……(中略)。
 
 しかしそれでもページが残り少なくなるまで、いったいこの作品は何を語ろうとしてるのか? という興味で読者を強く引っ張り、最後の最後でインパクトのある事実を提示。さらにそこから……の辺りは、非常に面白い。
 技巧派のミステリ的な手法を良い感じでモダンホラーに導入し、成功を収めた秀作~優秀作だったといえる。
(ニーリィあたりがモダンホラーを書いたら、こーゆー感じになるかも?)
 つーわけで半日かけて一気読みで、なかなか満足度の高い一冊。

 ちなみに翻訳の吉野美耶子という人、訳文そのものは流麗で読みやすくって良かったが、訳者あとがきで、この時点でまだ未訳だった『亡命詩人』の内容を、本作『タリー家』と同様のオカルトものと紹介(……)。
 要は読みも中身の調査もしないでテキトーなこと書いたんだね。
 そういう意味では、かなりえー加減な仕事をしていて、翻訳そのものとは別のところで、プロの物書きの実務として画竜点睛を欠いた感じ。
 結局、翻訳書の数もそんなに多くないみたいだし(Amazon調べだが)、翻訳家として大成しなかったのもむべなるかな、であった。

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