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ミステリの祭典

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三人吉三廓初買

作家 河竹黙阿弥
出版日1888年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2024/01/03 13:55登録)
こいつあ春から、縁起がいいわえ

ミステリってその趣旨からも「おめでたい」は難しいところもあったりするからね(苦笑)お正月くらいは「お目出度い」ネタをやりたいわけで、今年は「三人吉三」。もうこのお嬢吉三の名セリフからしてお目でたい。夜鷹(街娼)が客が落とした大金を拾ったのを、女装の盗賊お嬢吉三が強奪する話なんだがなあ(だから大江戸ノワールのわけ)。

まあこの反語的なお目出度さ、にはどうやら理由があるようだ。江戸歌舞伎というものは、先行するいろいろな設定(世界)を引用して作るという作方があるわけで、三人吉三の場合には新春番組というのもあって曽我狂言の大前提がある。仇討の本懐を遂げるお目出度い話のパロディみたいなものなのだ。そしてさらに「吉三」とは、八百屋お七の恋人の寺小姓として取り沙汰される名前だったりするわけで、お嬢吉三が八百屋お七に見立てられて、最終幕で火の見櫓で太鼓(半鐘ではないが)を打つ。それが「一富士二鷹三茄子」の初夢のお目出度い夢見に重なる(富士=三人の構図、夜鷹、八百屋のナス!)。

まあこの話自体が「謎解き」の対象みたいなものだが、実は背景となる三人吉三の親世代の因縁やら、不良青年のお坊吉三の妹の花魁一重と通人文里の悲恋の脇筋、盗まれた家宝の名刀庚申丸とその購入対価百両が、関係者の間を転々とすることで話が縺れに縺れる。
大川端での三人吉三の出会いを待つまでもなく、親世代での因縁が重なっていて、お嬢と和尚は百両を落とした十三郎を介して義理の兄弟みたいな関係にあれば、和尚とお坊の親同士は仇みたいなもの。人間関係の複雑怪奇さが、ロスマク風と言っても過言じゃないくらいに重なり合う(苦笑)いやロスマクって歌舞伎風の因縁話だって言えばそうなんだ。

でこの話、時間経過が謎なんだけども、それでも舞台上では新春の江戸風景の中で、悪党たちが生き急ぎ死に急ぐ。それによって絡みに絡んだ因縁が解消されていく。そんなお正月の番組なのである。

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