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ミステリの祭典

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花嫁首 眠狂四郎ミステリ傑作選
末國善己編

作家 柴田錬三郎
出版日2017年03月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2023/12/28 13:09登録)
本書のように末國善己編で、創元が捕物帳の「ミステリ名作」を選んで出しているのも面白い。以前銭形平次「櫛の文字」も評者は扱っているが、人形佐七、半七、若さま侍、月影兵庫、宝引の辰、木枯し紋次郎...このシリーズ結構出てるねえ。どうも本書が第一弾だったようだ。でもさすがに右門は出てないなあ(苦笑)
で眠狂四郎。そりゃさあ、大坪砂男がアイデアマンで付いている作家だし、「幽霊紳士」みたいにミステリしていけないわけでもない。でも、週刊新潮の人気連載であり、意外なくらいに紙幅が少ないんだな。ミステリを展開するには尺が短すぎる印象。もちろん眠狂四郎、転びバテレンが武家の娘を犯して生まれた罪の子で、円月殺法を遣うニヒリスト剣士。映画の雷蔵、TVの田村正和でお馴染みで、エロカッコいいキャラには違いない。
しかし小説で読むとやや印象が違う。将軍家斉治世下、のちに天保の改革を主導する水野忠邦の懐刀、武部老人に請われて、対立する水野出羽守が企む陰謀を暴き、差し向ける刺客や忍者を薙ぎ倒し...というヒーロー剣士的な色合いの方が強い。エログロは売り物だけど、陰惨さは薄いんだ。まあだから作品によってはミステリ的な仕掛けのある陰謀に巻き込まれ、そのカラクリを暴いたりもするのだ。
というわけでちょっとくらいはミステリな時もあるし、意外な真相があったりもする。けど、尺が足りないから、ミステリ興味は深掘りされない。
それでも本書の最後の方に収録された「美女放心」「消えた凶器」「花嫁首」「悪女仇討」あたりはわりとミステリっぽい。湯殿からの凶器消失を扱った「消えた凶器」とか、砂男の例の作品っぽい。でも湯殿での密室殺人ならバカミス的な「湯殿の謎」の方が、なんというか、らしい。「からくり門」は「神の灯」パターンだったりするが、やや小味かな。
それよりも、しっかりと江戸情緒を再現したシバレンの時代考証の凄さとか、ヒーロー小説としてのツボの押さえっぷりとか、奇抜なエロ描写とか、そういうあたりの方が興味深い。いやシバレンの時代考証はマジで凄いから、若い方だと読むのに苦労するんじゃないかな。江戸っ子の地口の遊びっぷりやら、漢学や謡曲の素養やら、そしてそれをサラリと出して見せるスタイリッシュぶり。昭和のエンタメって凄いんだな...と改めて感じ入る。

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