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ミステリの祭典

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ハロー・ワールド

作家 藤井太洋
出版日2018年10月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 小原庄助
(2023/12/21 08:32登録)
主人公は、専門を持たないエンジニアの文椎。タイトルの「ハロー・ワールド」とは、一番初めにプログラムで書かせる文字列のことだ。
表題作の「ハロー・ワールド」で、文椎はブランケンといいうiPhone用広告ブロックアプリを作る。他のアプリと比べて性能が勝っているわけでもないのに、順調にダウンロード数は増えていく。特にインドネシアでの売り上げが高い。そこそこの実績しかないエンジニアが作ったアプリが、遠い海の向こうにいる人たちの人生を変えてしまう。一連の出来事をきっかけに文椎が遭遇する未知の世界は、インターネットの自由を脅かす世界だ。大きな力を持たない個人が抑圧から逃れるのは難しいが、技術者としてできる限りのことをするところがいい。
「五色革命」は、反政府組織の大規模デモによって封鎖されたバンコクで文椎は事件に巻き込まれる。言論や情報を統制する社会が貧しいとは限らない。圧政から解放されたはずなのに、以前よりも人々の暮らしぶりが悲惨になったいる国もある。自由とは危険を冒してまで手に入れる、もしくは守る価値のあるものなのかと考えさせられる。「巨像の肩に乗って」では、ツイッターにまつわる考察が興味深い。最初は革命的に思えたものもいつの間にか権力に取り込まれるという閉塞感を越えて、文椎が最後に至った境地が爽快だ。

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