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ミステリの祭典

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高丘親王航海記

作家 澁澤龍彦
出版日1987年10月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 クリスティ再読
(2023/12/08 19:21登録)
評者1200冊キリ番だから、こんなのはいかが。
神格化された作家・評論家である。確かに評者も澁澤龍彦は読んではいるんだが、それほどハマった、という意識はない(すまぬ、幻想小説マニアのスノッブさに反発する気持ちも強いんだ)。でも、ダークで逸脱的なテーマを扱わせたら日本最高の権威だったわけで、裏文学界の教祖である。
本書が唯一の長編小説で遺作になる。となるとどうしても肩に力が入る....はずだけど、実は入らない。上品でさらっと流したような小説なんだけど、実はいろいろ「ひっかかる」ポイントがある。

平安朝初期の政争で敗れ皇太子から出家の身になった高丘親王は、60歳を越えて唐に渡り、さらに東南アジア回りで天竺を目指す...しかし澁澤自身の病気(喉頭がん)を投影したように、旅の途中で病に倒れ「虎に食われて死に、虎の腹中にかかえられて天竺に」。
その旅を導くのは若き日に父帝(平城天皇)の寵姫として、親王にとっても憧れの女性だった藤原薬子の幻影。「そうれ、天竺まで飛んでゆけ」と投げられた玉は親王自身の魂でもあり、親王が飲み下し自らの病を悟ることになった真珠であり、また薬子が戯れた親王の睾丸、さらには薬子の化身のような幻想の鳥「頻伽」の卵、そして獏が食べたよい夢が化した芳しい糞でもある。

このような生と死とエロスをないまぜにしたイメージによって、高野山奥の院で今も「生きている」師である空海と、子を産んだらミイラとなる身を定められたパタリヤ・パタタ姫と同様に、親王は死にながら虎の腹中で死を超克する...
そんなイメージの重なり合いの旅。いや評者も「あとの仕事はニコニコしながらあの世に行くくらいのことだ」なんて言い放つようなお年頃だからねえ。

いいじゃないの。こんな死に方ならば。
良い夢なら評者だって芳しい「獏の糞」になれるさ、きっと。

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