home

ミステリの祭典

login
拳銃無頼帖 抜き射ちの竜
拳銃無頼帖シリーズ

作家 城戸禮
出版日1988年08月
平均点3.00点
書評数1人

No.1 3点 クリスティ再読
(2023/12/05 20:09登録)
渡辺武信の「日活アクションの華麗な世界」の頃だもの、評者学生時代はそれなりに日活アクションも見た世代なんだね。名画座のオールナイト主体で回ったよ。けどねえ、評者なんかはニューアクション期が好きだったから、意外に赤木圭一郎は見てなかったりするんだな。ジョーといえば「日本のハードボイルド俳優」として、評者世代のシネフィルの間でも人気だったわけだから、「ニッポンのハードボイルド」に、やはり日活アクションも影響を与えていると見ちゃ、いけないのかな?

で本作、赤木圭一郎のブレーク作の同題映画の原作。城戸禮といえば春陽文庫で膨大なタイトル数を誇っていた作家だけど、ミステリ作家と言っていいのか...困るね。確かにアクション小説には違いないんだよ。

早撃ちの名手で「殺さず」の殺し屋である「抜き射ちの竜」が、暗黒街の影の支配者である楊の世話になることになる。楊は竜を片腕として厚遇するが、楊の冷酷な手口に反発を抑えられなくなり、反旗を翻す...

という話。もちろん楊は香港を根城とする中華系のギャングで「第三国人」という言い方がリアルだった時代の作品。意外にガンアクションの場面は少なくて、単に「抜くぞ!」と威嚇するだけで、ヤクザたちは恐れ入る。刑事の妹と純愛しちゃうし、非情さもないなあ....


日本人....その言葉が竜二の胸に、ぎくッときた。そうだ、俺も日本人だったっけ。その日本人が、楊の意のままに同じ日本人を傷つけ、同胞を廃疾者にする片棒を担いでいる。これでいいのか?...悔いに似た一種の正義感が、今更のように甦ってきた。

と急に改心。ハードボイルドじゃないなあ....いやこういう余計なお説教的な心理描写とか先回りしたような予告とか原作には多いんだ。はっきり古臭い大衆小説である。

映画では宍戸錠が「コルトの銀」という竜のライバルとして、存在感があるんだが、原作には似たようなポジションで「両刃の源」と「コルトの徹」がいるにはいるが、小物臭が強い。やはりジョーあっての「コルトの銀」ということになるわけだ。う~ん、映画(それほど名作、というほどでもない)にも遠く及ばない原作だなあ。

Wikipedia なんかでも「ハードボイルドの先駆者」みたいに書かれている部分はあるんだが、西部劇か股旅モノを応用したような雰囲気の方が強い。大坪砂男の「私刑」なら、土着ハードボイルドと呼んでいい「鋭さ」と「新しさ」があるけど、これだとモダンな講談みたいなもの。

まあ試しに読んでみただけだがねえ。宍戸錠なら「拳銃は俺のパスポート」「みな殺しの拳銃」「殺しの烙印」と「ハードボイルド三部作」と称賛されるあたりはホントにストイックなハードボイルドらしさを味わえるわけで、「ミステリのハードボイルド」とはちょっと違う文脈での「ハードボイルド」も日本になかったわけじゃないと評者は思っているよ。

(たぶん後の加筆だと思うけど、最終章で実は竜は隠密捜査の刑事だったというバレがある...おいなあ....泣くよ)

1レコード表示中です 書評