(2023/11/22 18:17登録)
舞台となるのは瀬戸内海にほど近い、人口三十数万の地方都市・津之神市。この街の所轄署で強行盗犯係の刑事として働く高岡守は、清廉潔白とは言い難いタイプの警官だが、同業だった父の背中を見て育ったが故に、熱い信念も抱いていた。そんな守が何よりも忌避しているのは、親方日の丸で安穏としている警察官で、他でもない兄・剣をその典型だと見ていた。守と異なり、幼い頃から成績優秀だった剣は、弁護士化検察官を目指していたが、卒業半年前に方向転換し国家公務員Ⅰ種を受け見事合格。現在は警察庁刑事局刑事企画課に所属していたが、異例ともいえる異動で地元へ戻ってきたことから物語は動き出していく。公務執行妨害で逮捕したものの不起訴となり釈放した男が、死体となって発見された殺人事件の捜査に奔走する守。銃火器や薬物の検挙率と押収量が異常に優秀で経理面も「真っ白すぎる」県警を内偵する表の任務のほかに、秘密裏に抱く目的を果たすべく調査を始める剣。直情的なノンキャリア巡査部長の弟と冷静沈着なキャリア警視の兄は、同じ街に暮らしながらも、ぎこちない関係が続く。嫌いというほど幼くはないし、憎み合っているわけでもない。干渉しあうこともなく育った兄弟に距離が出来た理由な何なのか。その鍵となるのは、十五年前に殉職した父・敬一郎にまつわる黒い噂と、守と剣それぞれに異なる「刑事の父」への思いだった。県内全域を牛耳る指定暴力団との癒着、捜査の過程で浮かび上がった彼らの新しい資金源などを絡ませ、事件発生から解決までを一気呵成に読ませる。守と剣か十段な同僚・久隅との「迷相棒」ぶり、剣の部下で男勝りなバイリンガル小野谷の屈託。「面倒臭い」兄弟を見守る二人の母親・春江や、それぞれの妻や子供たちとの何気ない会話。守や剣と同じく刑事の息子として生まれた作者の覚悟を感じる一作。
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