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ミステリの祭典

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アガサ・クリスティーの大英帝国
東秀紀

作家 評論・エッセイ
出版日2017年05月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 小原庄助
(2023/11/18 11:04登録)
本書は観光と都市の歴史研究の専門家でミステリファンでもある著者が、クリスティーの生涯と大英帝国の盛衰をたどりながら、名作の魅力の源泉を「観光」と「田園と都市」というユニークな切り口で浮き彫りにした評論である。
ポーの世界初のミステリ「モルグ街の殺人」が発表された一八四一年は、トマス・クックが鉄道による団体ツアーを組んだ観光元年でもあったという。だが、ポーはパリを舞台に名探偵デュパンを活躍させたが、コナン・ドイルも名探偵ホームズを旅に出してはいるが、もっぱら仕事のためで観光ではないと著者は指摘する。
その点「そして誰もいなくなった」をはじめとするクリスティーの名作は、観光ミステリと都市と近郊の田園を舞台にした作品が多いのが特徴で、それが独特の魅力にもなっていることを、具体的に長編六十六作をもとに分類し、鮮やかに分析してみせる。
謎と恐怖を主題とするミステリの評論研究はともすると、トリックとか意表を突くプロットの分析に偏りがちだが、著者はそういう点は十分に理解した上で、クリスティーの魅力の全体像を、乱歩のいう「謎以上のもの」の分析を通して教えてくれるのだ。ミステリへの愛が行間ににじみ出ている好著である。

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