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ミステリの祭典

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残像

作家 伊岡瞬
出版日2023年09月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2023/11/07 18:01登録)
(ネタバレなし)
 ホームセンター「ルソラル」でバイトとして働く19歳の浪人生・堀部一平は、同僚のバイトで60代半ばの葛城直之の具合が悪いので、彼を自宅まで送った。葛城は、老朽アパート「ひこばえ荘」の住人。一平はそのアパートの住人仲間である衣田(ころもだ)晴子、天野夏樹、香山多恵という3人の女性、そして冬馬と呼ばれる小学5年生の男子と、なりゆきから親しくなった。だが一平は、葛城と女性たちの間に、何か秘密めいたものを感じる。一方、衆議院議員の吉井正隆の長男で24歳の会社員・恭一の周辺では、とある事件が起き始めていた。

 角川文庫75周年ということで、文庫書き下ろしの新刊。
 
 伊岡作品の諸作同様、人間の救いがたい闇が主題のひとつになり、一方でそれとは別に人間の輝きや明るさ、温かさにも目が向けられる内容。

 読後にネットの感想を見回して、今回の伊岡作品(本書)は、特にラノベみたいだ、というコメントを読んだが、まだ十代の主人公・一平を主軸としたメインドラマの部分など、ああ、たしかに、という感じである。

 500ページ近い紙幅をすらすら読ませ(人物メモをとりつつ、実質3時間かからずに読んだか)途中でテンポよく物語の反転を随時見せるのは、職人芸。
 それでも後半の展開というか、一部のキャラクターシフトの扱いに作者側の都合の良さを感じる部分もないではなかったが、それが作劇の定型を脱している分、そんなこともあるのかもな、的な妙なリアリティを感じさせなくもなかった。
 どういう後味で終わるかはある種のネタバレになるかも知れないのでナイショだが、それなりに充実した気分でページを閉じる。

 ちなみに本作はノンシリーズもののはずだが、テーマのひとつが(中略)なため、当方がまだ未読の作者の初期作に似たような文芸設定のものがあるので、その後日譚かな? とも、あるタイミングで一瞬、考えたりした。
 実際のところは違うようだけども。

 伊岡作品はこのところ毎年、数冊は新刊を楽しませてもらっているので、年内にもう一冊くらい、シリーズものとかが出てくれればウレシイ。

 本書の評点はちょっとオマケ。

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