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ミステリの祭典

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サインはヒバリ: パリの少年探偵団
パリの少年探偵団(ノエル、ドミニック、ババ・オ・ラム)シリーズ

作家 ピエール・ヴェリー
出版日2023年10月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 おっさん
(2023/10/24 12:32登録)
〈論創海外ミステリ〉の303番として、筆者がフランス・ミステリ作家の中でとりわけ心惹かれる、ピエール・ヴェリーの、最晩年のジュブナイル『サインはヒバリ パリの少年探偵団』(Signé : Alouette 1960)が刊行されました。
Bravo!

〈論創海外ミステリ〉は、301番から装丁がリニューアルされ、帯がなくなって、内容紹介はカバーに刷り込まれるようになったので(その理由は……経費削減か?)、装画に添えられた、その、カバーの表のコピーを見ておきましょう。
「誘拐された仲間を探し、知恵と勇気の少年探偵団がパリの街を駆け抜ける。童謡「やさしいヒバリ」が導く先に待ち受ける真実とは……。 第一回冒険小説大賞受賞作家が描くレトロモダンなジュブナイル・ミステリ!」

そして裏のカバーには、「訳者あとがき」の文章も「(……)波乱に満ちたストーリーは、もちろんジュニアからシニアまで、世代を問わずに楽しんでいただける傑作です」と、惹句のように抜粋されています。
誘拐事件の被害者となった孤独な少年と、心ならずも犯行グループに加担してしまった、孤独な巨漢との、心の触れ合いと、それによる両者の変化がエモーショナルに描かれ、いっぽうで「探偵団」サイドの追跡行には、思わぬハードなアクション場面も用意されています(人が死ぬ「世界」であることが明示され、このことはラストの展開にも意味を持ってきます)。意味ありげな暗号通信のエピソードが、本筋の誘拐とどう絡むのか、絡まないのか――そのオフビートな処理も楽しかった。
確かに「世代を問わずに楽し」める冒険譚だと思います(「本格」ものではありません)。
思いますが、かつて晶文社の〈文学のおくりもの〉という叢書で、レイ・ブラッドベリの『たんぽぽのお酒』などと一緒に、この作者の傑作『サンタクロース殺人事件』と出会った幸せな読者としては、本書もまた、そういう、若い世代が海外小説に親しむためのレーベル(〈論創ヤング・アダルト〉とかね)で、訳文も、もう少し児童を意識した平易なもので紹介されていたらなあ、と、我儘な感想を持ってしまいました(きわめてリーダビリティの高いストーリーのはずが、訳文の表記が気になって、ここ原文ではどうなってるんだろう? と思わず目が止まってしまう箇所がいくつかあったのは、残念ながら、編集部のチェック不足も問題ですね)。

それにしても。
未訳のヴェリーだったら、映画化もされた代表作 Les disparus de Saint-Agil(1935)か Goupi Mains-Rouges(1937)を、まず紹介してほしかったけど――なぜこの作品だったんだろう? 
「訳者あとがき」(塚原史)に目を通したあと、ちょっとこの訳者さんについて知りたくなり、ネットで検索してみたら……なんとなくその答えがわかったような気がしました。
塚原氏は、フランスの文学・現代思想に造詣が深い大学教授(著訳書多数)で、父は児童文学者、祖父は童話作家という環境で育たれ、青春時代には、パリに遊学した経歴をお持ちなんですよ。
固い仕事の合間に、あくまで趣味で、世間的な評価とか関係なく、思い入れのある児童書を一冊、訳してみた、そしてどうせなら、それを本にできないか、ということになり、何かのつてで原稿が論創社に持ち込まれ採用になった、というのが答えでは? と、これは筆者の勝手な想像ですが――当たらずといえども遠からずでしょう(と、すみません、これは事実誤認でした。訳者の塚原氏の、思想関連書を担当していた編集者からの提案で、原書提供を受け訳出したものということです。本稿末尾の「追記」も参照されたし)。

縁あってヴェリーの訳書を出されたのですから、これを手始めに、版元は、ヴェリーの訳者として経験をつませてあげてみては如何でしょう? 専門分野の翻訳者としては実績のある人でも、ミステリ翻訳となると勝手がちがうでしょうから、きちんとしたフォローは必要ですがね。
「訳者あとがき」に挙げられた、簡易なヴェリーの作品リストの中で、1934年の Les Quatre Vipères が未訳扱いされていたら、ちゃんと、本にはなっていないが、雑誌掲載の訳が存在することは教えてあげましょう(「ガラスの蛇」EQ'89.5-9 「藪蛇物語」宝石'46.10-12)。
あ、あとこのリスト絡みでは――『サインはヒバリ』と同じ1960年に記載されている Les Héritiers d'Avril(『アヴリルの相続人』)は、筆者の知る限り、同じ少年探偵団が登場する本書の続編のはずで、リストの 並び順が逆では? 宣伝材料にもなるだろうそのへんの情報ついて、「あとがき」でまったく触れていないの は疑問 でした。もっとも、フランス語は専門外で、現物も未見のおっさんのことですから、この件に関しては、こちらの勘違いの可能性もありますが……はてさて?

(追記) 本サイトをご覧になられた、訳者の塚原史氏から、〈論創海外ミステリ〉編集部経由で、以下のような内容の回答をいただきました。

①問題の『アヴリルの相続人』が、『サインはヒバリ』と同じ三人の主人公(ノエル、ドミニック、ババ・オ・ラム)が同じ設定(学校や年齢など)で登場する作品であることは間違いないこと。
②ただこの『アヴリル…』は、初出が1959年のジュニア向け雑誌 Pilote(パイロット)連載(59年10月~60年3月)だが、書籍版は、Pilote 連載中にアシェット社の〈緑の図書館〉編集長から同叢書への収録を要請されたヴェリーが、かなり改稿して1960年後期に出版されていること。
③『ヒバリ…』もほぼ同時期の刊行だが、〈ヴェリー三巻選集〉第一巻の解説によると、おそらく数か月の差で『ヒバリ…』が先に出て、『アヴリル…』は同年急死したヴェリーの生前最後の著作になったとのこと。

末尾ながら、塚原氏および〈論創海外ミステリ編集部〉の真摯な対応に、謝意を表します。(2023.10.31)

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