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ミステリの祭典

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ハンガリアン・ゲーム

作家 ロイ・ヘイズ
出版日1976年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2023/09/28 18:46登録)
(ネタバレなし)
 1970年代前半。「私」ことアメリカの諜報局員チャールズ・レムリーは、1956年にハンガリー国内の内乱で死んだはずの軍人で、当時の同国内で殺人鬼として恐れられたジューロ・ヤーカツ大佐が、現在もまだ生きていると認めた。ヤーカツの軌跡を追うレムリーは少しずつ、予期せぬ秘密の謀略に接近してゆく。一方「請負人ジョニー」ことベテランの暗殺者リチャード・T・ハゴビーアンは、デトロイトの殺しの仲介人バーニーの斡旋で一人の老人の殺しを請け負うが。

 1973年のアメリカ作品。
 作者ロイ・ヘイズは1936年にロスアンゼルスに出生。生活に困って処女長編の本作を書いたが、日本ではこのあと邦訳も出ず、21世紀の本邦では完全に忘れられた作品、作家になっている。
(本国でのその後の活躍とかは知らない。)

 半年ほど前にブックオフの200円棚で見つけ、大昔にちょっとかっこいい装丁、邦題だと思って気にとめた記憶を思い出し、なんとなく懐かしくなって購入。そして昨夜、読んだ。

 物語は一人称の主人公レムリーの動向を追う流れと、暗殺者ハゴービアンの軌跡を綴る三人称のパート、その二つが後半のある時点まで交互に進行。
 ちょっとバリンジャーなども思わせる構成だが、翻訳・小菅正夫の達者さもふくめてスラスラ読めた。
 ただしお話そのものは相応に入り組んでおり、ちょっと気を抜くとストーリーの脈筋を見失いかけないが、評者は人物メモをとりながらいつものように読んだおかげで、なんとか最後まで持ちこたえた(と、言いつつ、読後にその人物メモ一覧を見て、再発見することもあったりしたが・汗)。
 よくいえば作風は、話が錯綜する分、見せ場は間断ない感じで面白い。
 主人公レムリーが不要な殺人を厭いながらも、必要とあればサディスティックな尋問・拷問なども是とする辺りの残酷描写とか、ハドリー・チェイスの雰囲気を思わせる。クライマックスの山場シーンも、なかなか鮮烈。

 終盤に明かされる大ネタは、ちょっとSF? チックともいえるテクノロジーへの接近で、情報の記録・伝達技術が進化した21世紀からすれば正に大昔の科学観だが、作中で踏みつけられた登場人物の境遇もあいまって、妙な情感をそそる。 
 
 欧米ではボンドとル・カレを足して二で割った、さらにフォーサイスなども意識したとかの評を得たようだが、個人的にはアダム・ホールのクィーラーあたりの影響なんかも見やったりする。あ、もしかしたら、ジャンルは違うが、悪党パーカーあたりの影も感じるかも。

 実際、レムリーの物語はそのままシリーズ化されてもいいような感じだが、前述のように邦訳はこれ一冊だし、その後の本国での作者の活躍なども特に意識しない。
 たまたま出会って、それなりに面白かった、行動派のエスピオナージ、そんな一冊である。

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