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ミステリの祭典

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エノーラ・ホームズの事件簿~消えた公爵家の子息~
エノーラ・ホームズ(アイビー・メシュル)

作家 ナンシー・スプリンガー
出版日2007年10月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2023/09/22 09:17登録)
(ネタバレなし)
 1888年7月の英国。片田舎チョーサリアの町の周辺の屋敷から、64歳の未亡人が14歳の長女エノーラを残して蒸発した。姿を消した女性の名はユードリア・ホームズ。あの世界的に有名な諮問探偵シャーロック・ホームズと、英国内政の要人マイクロフト・ホームズの実母だ。ユードリアの蒸発にはさる事情があったが、いずれにしろロンドンの兄弟は年の離れた妹と10年ぶりに再会。エノーラはマイクロフトの計らいで厳格な寄宿学校に入学を指示されるが、そんな不自由な境遇を疎んじた少女は母がひそかに託した相応の額の生活費を持って逃走。シャーロックそして偶然に出会ったレストレード警部の目をかわして逃げ回る。そしてそんな状況と前後してエノーラが遭遇したのは、まだ12歳の少年侯爵の誘拐事件であった。

 2006年のアメリカ作品。

 消費税5%時代のブックオフの100円棚で製本所流れみたいな美本を買い、そのままずっと読まずに放っておいたが、半年ほど前に書庫の中からたまたま見つかった。
 ちなみに本作は2020年に英国で実写映画化されて(コロナ災禍のため劇場ではなく、ネットフリックスで配信公開)大人気だそうで(評者はまだ映画は未見)、この原作(邦訳本)もちょっとプレミアがついてるということを少し前に知った。
 そーゆーわけで、いつのまにか思わぬ妙な付加価値? がついていた本作だが、今夜、寝る前にもう一冊、何か読もうと思い、明け方近くこれを手に取った。

 物語はいかにも設定篇という感じで、エノーラの状況が語られ、ホームズ兄弟が動き、さらに実は暗号マニアだったという母ユードリアの情報が明かされるまでで本編のほぼ半分を消化。
 ちなみにガチガチのシャーロッキアンがこれを読んで許せるかどうかは知らないが(汗・笑)、評者程度のホームズものの素養の人間にはまあ許容範囲である。マイクロフトなんかは堅物で融通がきかない面もあるが、その辺は年の離れた妹への不器用な接し方という感じで了承。

 とはいえ実母ユードリアの失踪の背景には、実はかなり男尊女卑のいびつな社会構造に対してマイクロフトが無頓着でそれを当たり前のことと思いすぎており、その辺を不満に思ったユードリアが反発して、いろいろ裏工作していたということもやがて判明してくる。
 この辺は、当時の英国の未整理な社会行政の不備を揶揄する作者の視線があるらしく、他愛ない? お話を、なるほど21世紀の若者向けミステリへと格上げしている。物語の後半、エノーラがロンドンの下層社会に接し、自分がいかに無知で無神経だったか自覚するあたりも同様のメッセージ性だ。

 兄の勇名に頼らず、自立した女探偵として別名まで用意していたのに、ついうっかりと本名を言ってしまうようなエノーラのキャラクターもなかなか微笑ましく、それだけに本書後半での最初の事件を経て、改めて自立する図もちょっと好ましい。

 続刊が安く手に入れば続けて読んでもいいけど、前述の映画化人気のせいで、続きは入手しにくくなってるんだろうな(苦笑)。さすがにプレミア価格で購入して読む気はしない。

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