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ミステリの祭典

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ピンク・エンジェル
現代史もの

作家 ウィリアム・L・デアンドリア
出版日1983年05月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2023/09/21 20:07登録)
(ネタバレなし)
 1896年8月のニューヨーク。同地の新聞業界では、古参紙「ワールド」の社主ジョウゼフ・ピューリッツァと、新興紙「ジャーナル」の社主ウィリアム(ウィリイ)・ランドルフ・ハーストの熾烈な争いが、互いの支持政党の案件も絡んで続いていた。そんななか「ジャーナル」の人気風刺漫画家で画家のエヴァン・クランダルが「ワールド」への移籍を表明。ハーストは懸命に自社との継続契約を願うがクランダルの意志は固かった。だがそのクランダルが自宅のアパートで何者かに殺害され、たまたま現場の近くに居合わせた24歳のアイルランド移民の警官デニス・マルドゥーンは、現場で拘束されていた全裸の、そして内腿に天使のような痣のある美女を見つける。だがその美女は逃走。直属の上司である分署署長オザイアス・ハーキマー警部が事件を極めてぞんざいに扱うつもりらしいことに落胆したデニスは、現ニューヨーク市警の本部長で多くの逸話で世間を騒がせる名物男、38歳のセオドア・ルーズベルトのもとに事件の仔細を訴えるが。

 1980年のアメリカ作品。
 誰でもみんな読んでる『ホッグ連続殺人』、一部のファンがちょっと読んでるマット・コブもののデビュー編『視聴率の殺人』に続くデアンドリアの第三長編で、これを機に作者のお得意路線のひとつになる「アメリカ現代史ものミステリ」の第一弾。

 なんだこれは、本サイトでも誰も読んでないのね!?(オレもだ)ということで、しばらく前に古書で買ってツンドクのままの一冊が蔵書の山の中から出てきたので、このたび読んでみた。
 400ページの紙幅は長いようなそうでもないような、だが、読了までに二日かかった。

 趣向はあらすじ及び前述の拙文のように、風太郎の「明治もの」を思わせる時代ミステリだが、有名史実キャラクターは、主人公の一方となるルーズベルト、二大新聞王以外、そんなに活躍していないはず(評者の現代史の知識が薄くて、誰か見落としてるかもしれんが)。物語の表面に出ないで名前だけ出るキャラなら、グラハム・ベルほか何人かいるが。
 実際のミステリとしての読みどころは、何か具体性の未詳な陰謀がニューヨークで進行しており、その謎を探ること、あと、本名不明で出没する謎の怪人の正体を追うこと、など。
 タイトルロールであるメインヒロイン<ピンク・エンジェル>については早々に、デニスやルーズベルト側からカメラアイが切り替えられた方の物語の流れで、メインの登場人物としてその内面もふくめて読者の方に明かされる。
 
 大づかみにいえばちょっと異色の時代設定と有名史実キャラを迎えた警察小説で、さらに、青年主人公デニスの苦闘と成長そして……を描く青春ミステリ。お話は中盤までやや冗長な印象がないではないが、デニス周辺の家族の美人姉妹たちの陽性の描写など、終盤まで読み手の興味を軽く刺激する味付けもよく出来ている。元悪党だったが改心し、いまはルーズベルトの部下として活躍、そして主人公デニスを救うため貧乏くじを引く某サブキャラみたいなもうけ役の登場などもなかなか。
(あ、愚直な正義漢オヤジ、ルーズベルトの主役っぷりはよく書けていると思う。読後にネットで、現実の当人の人物像を探ると、好きになれるところ、その反対のところ、実にカオスだが。)

 山場は、良い意味での<アメリカ的な泣かせ>を含めてそれなりに盛り上がったが、黒幕というか真犯人の正体は見え見えでここはちょっと弱い。それでも探偵役のルーズベルトが、黒幕の正体を推察した経緯の手掛かりや伏線をひとつひとつ羅列する辺りは、当初期待されていたパズラー作家としてのデアンドリアっぽい。
 
 ラストのしみじみとした、主要登場人物のほぼ全員のその後(彼らが現代に至る歴史のなかでどのような人生を送るか)を語るエピローグはかなり情感に富んでいて好み。
 考えてみれば評者の場合、この手の歴史・時代ミステリって、こういう最後の、その後の登場人物たちは……を読むために読んでいる部分も少なからずあるな。

 評点は7点にかなり近い、6点ということで。

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