10月1日では遅すぎる |
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作家 | フレッド・ホイル |
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出版日 | 1967年12月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | |
(2023/09/18 07:58登録) (ネタバレなし) 1966年。「私」ことケンブリッジ大卒の音楽家(ピアニスト、作曲家、指揮者)で30歳前後のリチャードは、西ドイツのケルンの音楽祭に参加してロンドンに戻る帰途で、学友の数学者かつ物理学者ジョン・シンクレアに出会う。シンクレアと旧交を温め、スコットランドの荒野での遍路を楽しむリチャードだったが、途中である奇妙な出来事が生じた。それとは別途に、政府の者が要人の科学者としてシンクレアを迎えに現れ、リチャードも同行する。実は太陽系で「何者」かの意志による? 異変が生じており、太陽は外宇宙に向けたある種の装置として稼働していた。その影響か、地球上各地の物理法則に異常が生じ、世界の各地に、過去の時代そして……のそれぞれ大規模な空間が、その時代の人間たちもろとも出現し、一方で当該の現実の空間と人々はいなくなっていた。混乱する新世界の行方は。 1966年の英国のSF作品。作者ホイルの6番目の長編。 巨大ロボットアニメファンの筆者としては『超時空世紀オーガス』の物語世界「混乱時空」の元ネタの作品として以前から聞き及んでいたが、半年ほど前に都内の古書店の100円棚でハヤカワポケットSFの銀背を購入。 今夜、気が向いて読んでみた。 カオス化した新世界の出現までの序盤~前半がそれなりに長いが、一方でその辺は<やがて喪われる平穏な世界>という文芸の直喩なので、演出としては正しい。 自分なりの音楽道に強くこだわる主人公リチャードの意識も入念に丁寧に語られ、一見大筋とは関係ないように見えるが、あとあとでこれが生きてくる……というか、全編通してSFであると同時に音楽小説だったな、この作品。 太陽系にいきなり人為的な操作をしかけてきた黒幕の扱いについてはここでは書かないが、こういうSFビジョンだったのにはかなり驚かされた。なにしろ、オーガスまんまの時空震動弾的な類の地球人側のギミックで世界が壊れるものと思っていたので(あまり書くとネタバレになるが、ここまでは大設定ということで書かせてください)。 で、本作は最後まで、ある意味で事態に半ば巻き込まれた(というか友人シンクレアに付き合った)主人公リチャードの一人称作品なので、新世界が誕生したのち、あちこちに出現した歴史の欠片的な場をひとつひとつ回らせるわけにもいかず、各地で起きた騒ぎや事件を定まった場所で聞く伝聞みたいな形で済ませてしまっているのが結構、もったいない。 どうせならこの設定で『タイムトンネル』みたいな連作短編ものにしても良かったね。まあ主人公だけが必ずその場その場に行かなきゃならない流れに、なんらかのイクスキューズは必要となるが。 そういう意味で、後半、古代ギリシャの世界、そして……にリチャード自身が乗り込み、ちゃんと現地から種々の軋轢を乗り越えながら実況中継してくれる辺りから、本格的に面白くなる感じ。そしてここでもちゃんと音楽家という設定は活かされ、その辺は小説としてもよく出来ている。 ラストのまとめ方は、良い、と思う部分、またその逆の面でそれぞれに思うところはあるが、まあすでに半世紀以上前の新古典作品。ゆったりした気持ちで読み終えたい。 トータルとしては十分に面白かった。 まあ細部の面から「新世界」の作中のリアリティを突き詰めていくと、あの辺の事情はどうなってんだろうと思うこともないのでもないのだが、まあその辺は、今回の場合、名作につまらないケチをつけるようなものかもしれない。 旧作SF好きの人は読んでおいた方がいいとは思うよ。 |