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ミステリの祭典

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切り裂く手

作家 ピエール・サルヴァ
出版日1978年08月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2023/09/08 08:15登録)
(ネタバレなし)
 結婚して22年目になる、若々しい美貌の人妻で、同年代の友人シモーヌとともにランジェリーショップを経営する、エレーヌ・クーチュリエ。彼女は夫ジョルジュを愛し、21歳の息子ダニエルと20歳の娘ナディーヌの良き母でありながら、一方でひそかに25歳の若い愛人フィリップ・マルヴィエと不倫の情事を楽しんでいた。そんなフィリップは医学生ダニエルの学友でもある。その日も秘密の情事を楽しむため先方のアパートに赴いたエレーヌだが、彼女がそこで見たのは何者かに惨殺されたフィリップの死体だった。被害者との秘密の関係の証拠を消し、黙ってその場を去るエレーヌだが、フィリップの殺害事件は、さらに思わぬ形でクーチェリエ家に関わっていく。

 1970年のフランス作品。
 
 美貌の人妻の秘密のアバンチュールに端を発し、主要人物の周囲にじわじわとサスペンスが高まっていくコテコテのフランス・ミステリ。

 本国では本書が翻訳(ポケミス)された時点でそこそこの著作数がある作者らしいが、結局のところ2020年代の現代でも邦訳はこれ一冊きりのようである。

 全体の物語はほぼ全編が主人公ヒロインのエレーヌを軸とした三人称一視点で綴られ、内面描写がされるのも彼女のみ。
 ごくシンプルな直球サスペンス(殺人の嫌疑がかからないことよりも、不倫が発覚して家庭が崩壊する方を恐れるが)で、物語の開幕から終焉までわずか4日の出来事である。

 特に衒い(てらい)もない作りの小品だが、こまめに小規模・中規模のイベントは間断なく繰り出されるので、それなりには楽しめる。
 真犯人の設定などスーダラだし、その上で先読みもできるが、それよりはクライマックスの寸前、エレーヌの内面に湧く疑念の方が面白かったかも。そっちをそのまま(以下略)。
 ブックオフで100円棚にあったら、買って読んでみてもいいかとも思います。

※登場人物の一覧表で、エレーヌの旦那ジョルジュの仕事が「工場のボイラーマン」とあるが、たぶんこれは訳者か編集の勘違い。ジョルジュの職業は明確に本文に出てこないし、一方でクーチェリエ家の若い女中ビエダットの主人がボイラーマンだと書かれているので、たぶん情報がごっちゃになったものと思われる。
 妙な種類のミスだ。

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