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ミステリの祭典

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冬の朝、そっと担任を突き落とす
田嶋春(タージ)

作家 白河三兎
出版日2020年12月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2023/09/05 19:01登録)
(ネタバレなし)
 その年の一月。共学高校の2年7組の担任である青年教師・穴井直人が校舎の階上から墜落死した。7組は理系クラスで女子が少なく、穴井はそのなかのひとりと関係を持ったことが露見し、自殺を選んだと噂されていた。そして二月の末に、7組は広島からひとりの転校生の女子・中西美紀を迎える。

 あらら……白河先生は2018年の『無事に返してほしければ』以降、もう青春ミステリ路線を見限ったのかと、なんとなく勝手に勘違いしていたら、2020年にこんなガチガチの学園青春ものミステリを書いていた(汗)。

 存在に気づいて購入したのは、数か月前。読んだのは昨夜。
 しかもあの『田嶋春にはなりたくない』の主人公「タージ」こと、田嶋春のイヤーワンの物語でもある(序盤のウン十ページ目から出て来る)。

 これは読まねばならぬ、もっと早く手にすべきだったと、おのれの情弱さを軽く噛み締めながら、ページをめくったが、冒頭のプロローグは、正直、観念的すぎてよくわからない(実際、読み終わった今でもモヤモヤ感が残ってる)。

 一方で本編の中身は、連作短編をつなげていくのに近しい構造の長編で、話者が交代しながらひとつひとつの挿話がほどかれていく。一方で縦筋も感じさせる話の流れは、中盤で大きなヤマ場を迎え、相応のショックを与えた。ここら辺は正に、僕らの(いや、オレの)知っている白河作品が帰って来た、という感じ。感涙しそうになる。
 
 とはいえ後半もそういった基調は続くのだが、一方で、残りの紙幅で何を語るのか? いや、確かに(中略)の件は残っているが……とか、雑多な想念を引き寄せられる感じになる。

 ちなみにAmazonのレビューで、白河作品にかなり思い入れのあるらしいファンが非常にパッショネートな評を長々と書いているが、これがまあ、ああ、100%共感はできないが、その思いはよくわかるよ、という感じ。
 ちなみに私は、本作におけるタージの運用は嫌いではない。むしろ先行の連作短編(時系列ではそっちの方があとの物語)と並べて心のなかで咀嚼して、新たに鳥観図が築かれた思いもある(といいながら、かの連作短編集の印象も、さすがに記憶が薄れてもいるが・汗)。

 いろんな思いに揺さぶられながら読み終え、最後に澱のようなものがどっしりと受け手の中に残る。うん、白河作品はこれでいい。

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