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ミステリの祭典

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落日

作家 湊かなえ
出版日2019年09月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 猫サーカス
(2023/08/18 18:07登録)
冒頭に、しつけの厳しい母親からアパートのベランダに出るように命じられる少女が登場する。隣家の少女との無言の触れ合いが、彼女の心を慰める。この出会いが物語の縦軸となる。横軸となるのは売れない脚本家の千尋と、世界が注目する新進気鋭の映画監督・香との出会い。香は十五年前に千尋の故郷で起きた「笹塚町一家殺害事件」を新作映画の題材として扱いたいという。引きこもりの兄が高校生の妹を刺殺し、自宅に放火して両親も死なせるという凄惨な事件は、裁判で犯人の死刑も確定していた。二人が取材のために別の裁判を傍聴する場面があるのだが、ドラマのような派手さがない進行に退屈と感想を述べる千尋に対し、香が語る台詞にハッとさせられた。日々見聞きするニュースを事実として受け止めるだけで、その奥にある真実を見逃してはいないか?という作者からの強力なメッセージに思えてならなかった。中盤から終盤にかけて、縦軸と横軸が見事に交差し、千尋と香が知りたかった事実がつまびらかになる。散りばめられた伏線が鮮やかに回収されていく様が痛快。作者はこれまでも、個性の強い母親や母と娘の関係性について書いてきた。本作でも千尋と香の母たちがキーパーソンとして描かれている点を鑑みると、母親という存在が創作の大きな柱であることは間違いなさそうだ。

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