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ミステリの祭典

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銃撃!

作家 ダグラス・フェアベアン
出版日1977年05月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 人並由真
(2023/08/10 16:26登録)
(ネタバレなし)
 1970年代のアメリカ。シカゴの南西部にあるスモールタウンの、メイボック。「おれ」こと、現地の地方デパートの社主である40歳代のレックス・ジネットは、その日、4人の旧友かつ復員兵仲間と、狩猟を楽しんでいた。河の向こうに6~7人の面識もないハンターの集団がいるが、そのなかの一人がいきなりこちらに発砲。レックスの仲間のセールスマン、ピート・リナルディが被弾する。レックスとピートの仲間で大規模な理髪店の主人、裏ではノミ屋の胴元であるジーク・スプリンガーが怒り、反射的に銃撃。先方の仲間の一人は頭部を撃たれて死んだようだ。一方、こちらの仲間で撃たれたピートはかすり傷で済んだようで、その治療を済ませた一同はジークの正当防衛が成立するか、過剰防衛を問われるか、そもそも先に向こうが発砲した証明ができるか、ジークは逮捕されるのではないか、と緊張する。だが事態は警察沙汰どころか大きな騒ぎにもならず、レックスは数日後、一人のハンターが流れ弾の事故で死んだという新聞記事のみを認めた。仲間たちのリーダー格のレックスは、向こうのグループがあえて警察への通報を控え、そしてこちらへの報復攻撃を考えているのだと確信した。レックスは仲間たち、さらに新たな人員を募り、応戦の準備を始める。

 1973年に米国のダブルディ社から刊行された作品。
 本書は小鷹信光と石田義彦の共訳だが、その小鷹が邦訳が出る前から、ミステリマガジン誌上で本書について言及。本書の内容についてあれこれ語っていた記憶がある。

 そんな理由もあってなんとなく昔から少しこだわりはあった作品だが、狭義のミステリではないせいか(もちろん広義のミステリでは、十二分以上にあるが)、読むのを十年単位で先延ばしにしていたら、一種のカルト作品として? アマゾンで古書価が高騰。
 しかし評者は今から半年ほど前の古書市で、幸運にも220円で入手。
 それで昨夜、読んだ。

 人間の暴力・殺戮への欲求、社会的に成功した者もそうでないものもひっくるめての、私的な戦争(戦争ごっこ)への傾斜などが主題の作品なのは言うまでもない(その辺は、ハヤカワノヴェルズの小鷹の訳者あとがきでも、たっぷり語られている)が、印象的なのは田舎の名士であり有力者ながら、本質的にガキ大将でマイルールで友人たちをたばね、助け、叱責し、ときには下手に出て相手を操縦する主人公レックスのキャラクターの濃さ。

 なお小鷹の解説では一度もその名前が出てこないが、2020年代のいま、日本語で読むと、かなりジム・トンプソンあたりと共通した味わいを感じる。実はエモーショナルな内容を、ドライでさばさばした書き方で捌いていくところなんかも含めて(ただし絶頂期のトンプソンほど、文章に独特のブンガク味めいたものは感じなかった)。

 本文はノヴェルズ版で150ページちょっととかなり薄目。だが名前の出る登場人物はかなり多く、メモを取りながら読んだら80人前後になった(一瞬で消えるキャラもかなりいるが)。
 性格群像劇としてキャラクターはおおむね図式的に配置されているといえるが、一方で意外に変わった運用をされるキャラもいて、その辺の起伏感はなかなか楽しい。
 終盤の展開はもちろんここでは書かないが、評者はかなり唖然とさせられた。
「え」。

 さらにラスト1ページの、あの登場人物のあのセリフ。もう、なんかね。

 コアが定まっているけれど、たぶん<少しくらいは>いろんな読み方が可能な作品。
 読んで良かった、とは思う。

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