(2023/08/06 14:34登録)
(ネタバレなしです) 米国のヘンリー・レヴェレージ(1879-1931)は1914年から1917年にかけてシンシン刑務所に投獄されています(それ以前にも刑務所入りしていた可能性あり)。獄中で書いた小説が成功して映画化もされました。本書は出獄後の1918年に発表され、これまた1926年に映画化されて日本でも上映されています。国内での翻訳出版も1922年に企画されましたが第7章の途中で中断されてしまい、ようやく2023年になってヒラヤマ探偵文庫版で完訳版が出版されました。もっともこの翻訳は約100年前に翻訳された部分をそのままにして未訳部分だけを現代訳して継ぎ足したものです。巻末解説で旧訳部分に誤訳や省略箇所があることを補足していますが、それなら全部を最初から現代訳してほしかったですね。死を予告するかのような手紙や電話を受け取った大富豪の依頼で名探偵役のドリュウは6人の助手を使って警護させますが、富豪は密室内で殺されてしまいます。指紋や銃弾や電話回線や足跡など様々な手掛かりを基にドリュウが犯人と殺害方法を推理していく、本格派推理小説らしさも備えたスリラー小説です。犯人の正体はかなり強引な推理ながらも特定しますが密室トリックは最後までしぶとく謎として残り、スリラー小説としてはじれったい展開に感じるかもしれません。最後が推理での解決でないところが個人的には残念ですが、本格派黄金時代より前に書かれた作品ですので仕方ないといったところでしょうか。
|