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ミステリの祭典

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鬼姫斬魔行

作家 神野オキナ
出版日2000年11月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2023/08/04 16:09登録)
(ネタバレなし)
 21世紀の初め。何百年にもわたり、妖(あやかし)や邪神からひそかに人間社会を守り続けて戦ってきた斬神斬妖の一族があった。その一角の戦闘能力に恵まれない血筋で、一族のために資産管理をする役割ながら大きな損失を出した月観(つくみ)家。当主は責任をとって自殺し、遺された当年15歳の少年・月観捨那(つくみしゃな)は、優しい母まで病気で失った。戦士としての力を持たない日陰者の捨那だが、そんな彼に一族の総領である老婆は、伝説の鬼の得るための試練を託す。それが捨那と、美しい不老の鬼娘「鬼姫」との出会いだった。

 作者の初期作のひとつ。
 評者は同じ作者の1999年のライトノベル作品『闇色の戦天使』の昏く切ない雰囲気が今でも大好きなので、しばらく前に入手しておいた近い時期の作品として読んでみた。
 本作も<ピュアだが戦いの血臭のなかで成長してゆく少年と、心に慈愛を秘めた凶的な最強の年長ヒロイン>という主人公コンビの属性は、その先行作『闇色の戦天使』を踏襲している。要はこの時期の作者は、こういうものが本気で書きたかったのだ。

 全体としては『死霊狩り』(小説版『デス・ハンター』)を書いていた頃の平井和正みたいな雰囲気で、残虐なシーンと伝奇SF活劇の娯楽性を盛り込んだ、しかし随所で独特の情感を読み手に授ける作風。
 本来は心優しい少年主人公の捨那が鬼の力(実は、解放された、人間誰しもの心に潜む闇の闘争心)を得て凶化していく一方、メインヒロインの鬼姫がそれを支えて見守るのはある種の読者の充足願望に応えた作りだが、作者は正面からそれを書く気なので下品さはない。主人公コンビの周囲を固めるメインキャラも図式的といえば図式的だが、ひとりひとりが、作者らしいクセのある存在感を見せている。

 ガンマニアで祖父の遺したモーゼルを手にする女子高校生の社長令嬢・狭霧諒子もそんなメインヒロインの一人だが、なにしろ彼女の部屋に入って来た父親のいきなりのセリフが「まるで、リュー・アーチャーの事務所だな」である(笑・嬉)。しかし地の文に特に諒子の部屋の描写はなく、作者は読み手に勝手にどんな部屋かイメージしてくれと期待をかけるだけ。自分が神野作品が好きな理由のひとつは、こういうすっとぼけた面にもある(とはいえ、膨大な著作数の上にシリーズものも多く、まだまだ未読は山のように多いが・汗)。

 ちなみに作者あとがきによると作者は本作をシリーズ化させたかったみたいだけど、実際のところはこれ一本で終わったようで、その辺も『闇色の戦天使』に似ている。
(ちなみに、「またこのふたりの続きを書きたい」と言ってるけれど「ふたり」じゃなくて……だよね?)
 まあこっちも、読み始める時点ですでにあまり長期化しているシリーズの一作目なんか敷居が高くてなかなか手に取らないし、単品作品だから読んだ面もある。そのくせ、読んでその作品世界や主人公たちに惹かれると、続きがないのを惜しい、とも思う。つくづく読み手は勝手なものである。

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