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ミステリの祭典

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彼女たちはみな、若くして死んだ

作家 チャールズ・ボズウェル
出版日2017年06月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2023/07/29 19:44登録)
(ネタバレなし)
 1949年のアメリカ作品。

 古くは1890年代の初頭(ホームズや切り裂きジャックの時代)から最も新しいもので1930年代半ばまでの、実際に現実に起きた犯罪実話を短編小説風に綴った、テーマ連作集。全部で10本のエピソードが収録されている。タイトル通り、被害者がみな、年長でも30代半ばくらいまでの、総じて美人または魅力的な女性なのがミソ。

 作者チャールズ・ボズウェルは、ドキュメント作家で、別著(共著)で、1954年度のMWA犯罪実話賞を受賞した御仁らしい。

 で、本書は各編のなかで語られるお話の形質(混み入りかけたそれぞれの事件や犯罪が、堅実な司法捜査、または関係者の調査によって徐々に暴かれていく)が、デビュー直後の「あの」ヒラリー・ウォーに大きな影響を与えたという。それで、え? と思って読んでみた。
(しかし旧刊とはいえ、2017年の刊行じゃ、まだ最近の邦訳本だな。そんな興味深い由来がある新刊本を見落としていたとは、我ながらアレだ・汗。)

 で、実物を読んでみると、ああ、ウォーに影響云々は、よくわかる。
 というか、個人的な印象としては、クロフツの長編で、フレンチほかの主役探偵や捜査官が、何らかの手掛かりらしいものを見定めて、足で歩いて事件を絞り込み、犯人や真相に迫っていく辺りの地味なワクワク感、あの辺の妙味を切り出してそれ自体をメインの賞味部分に仕立てた短編小説(実話小説だが)という感じ。
 たしかに警察捜査ものミステリの系譜において、その発展史の上で重要な一冊になったというのは、納得できる話だ。
 とにもかくにも各編、大筋においてこれは本当に現実にあった事件であり、捜査の過程であるという意識が読み手への圧になるのも、独特なリアリズムをぐいぐい体感させられるようで、常に各編のどこかに格別の緊張感があったような気もする。
 
 まあ正直なところ、評者など、大昔の少年時代には、ミステリなら基本的には作者が頭のなかで考えた虚構のフィクション(とどのつまりはウソのお話)なのに対し、犯罪実話というと妙な生々しさがあって抵抗がないでもなかった。
 面識もない、遠く離れた時代の場所の人とはいえ、実際の現実世界で被害にあった人たちの不幸を読み物として楽しむ行為に後ろめたさめいたものを感じるような気分も生じたりもしたのかもしれない。
 でまあ、現在でもそういうデリケート? な部分が全くなくなったわけでもないが、良い意味で割り切ってもいい、ともさすがに考える程度には成熟? したし、さらに勝手な理屈かもしれないが、こういう形で過去の犯罪実話に触れて思いを馳せるのも、まったくその事実を知らないよりは、何万分の1ミクロンぐらいはそれぞれの事件の当事者(被害者)の供養の真似事くらいにもなるんじゃないか、とも思ったりする。

 まあ、その辺の思いはともあれ、リアリズム派の警察小説好きなら、読んでおいて損はない、楽しめる一冊だとは思うよ。

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