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ミステリの祭典

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ロマンの象牙細工
森村誠一

作家 評論・エッセイ
出版日1988年05月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 おっさん
(2023/07/27 15:39登録)
最後に読んだ森村誠一は何だっけ?
朝刊各紙の訃報記事を眺めながら、考えました。ノンフィクションの『悪魔の飽食』(1981)だよな、うん。
でもま、あれは立派な仕事ではあるけど、小説に限るなら――同じカッパ・ノベルスの書下ろし『致死海流』(1978)か。密室とアリバイ崩しの二本立てで、原点回帰の悪くない作品だったけど、初期の荒削りなパワーが、逆に懐かしくなったような記憶が、うっすらとあります。
すっかりご無沙汰しているうちに、しかし著作は続々と増えていき……ちょっと確認しようとウィキペディアのリストをスクロールしていたら、眩暈に似た感覚を覚えました。
訃報記事で一様に代表作として挙げられているのは、映画との相乗効果で社会現象を巻き起こした『人間の証明』(1976)で、これは実際、作者にとって転機となった力作(ディーン・R・クーンツ流にいえば、ジャンル小説から一般大衆小説へのステップアップ)ですが、同じ角川映画つながりなら、筆者的には『野性の証明』(1977)のほうに思い入れがあるんだよなあ。
“本格推理”のジャンルでいえば、なんだかんだいっても、やはり『高層の死角』(1969)と、あと『密閉山脈』(1971)でしょうね。
カッパ・ノベルス時代(?)の、『超高層ホテル殺人事件』(1971)や『黒魔術の女(1974)』あたりの、アイデアのトンデモなさも忘れがたいw。“清張以後”とはいえ、ちゃんと、ミステリの読書体験のベースに乱歩やディクスン・カーがある人なんですよ。嫌いにはなれない。
けど、好きにもなれない。疲れるもんwww。

というわけで、情念のストーリーテラー森村誠一の作品群は、基本、一度読んだらそれきりで、読み返すことのない、おっさんですが……唯一の例外が、このエッセイ集『ロマンの象牙細工』(講談社 1981)です。
講談社から刊行された、自身の《長編推理選集》全15巻、及び《短編推理選集》全10巻の「月報」に載せた文章を中心に、推理小説に対する忌憚のない私論を展開、興味深い楽屋噺も披露してくれています。
白眉は、「森村推理悪口集」。デビュー以来、森村作品に対して寄せられた批判、悪口のたぐいを集め(例の〈SRの会〉の奴とか、若き日の、瀬戸川猛資なる人のナマイキな文章も引用されてます)、作者がコメントしていくという、凄い内容です。このメンタルの強さは、皮肉でなく、素晴らしい。プロとしてのプライドの高さ。たとえ傷つき、何度か死のうとも生き返る、フェニックスのごとき生命力。もちろんそこには、多くの読者によって支えられているという、自信の裏打ちがあるわけですがね。

一読をお薦めする次第ですが、もしできれば――
小泉喜美子が『小説推理』に長期連載したエッセイを加筆訂正してまとめた『メイン・ディッシュはミステリー』(新潮文庫 1984)を併読されると、興味は2倍にも3倍にもなりますよ。まさに水と油。蛇とマングース。
でも、どっちも面白いんだよなあ(無責任)。

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