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ミステリの祭典

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盗まれた完全犯罪

作家 大谷羊太郎
出版日1984年08月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2023/07/11 15:29登録)
(ネタバレなし)
 春から三年生となるR高校の男子、坂口恵一は、受験勉強の合間に、テレビの倒叙ミステリドラマ「大都会ジャングル」を視聴していた。その日は前後編の前編で、何やらトリックを使ったゲスト主人公が被害者を転落事故に見せかけて11階の密室状況のマンションから転落死させる回だった。だがドラマと同じ時間帯に坂口家の近所のマンションの同じ11階で、ほとんど同じ状況の転落死が発生。恵一は、ガールフレンドである学友の後輩・柏木紀久子の兄で、自分も兄貴分のように思っている26歳の青年・俊明が殺人の容疑者になっていると知る。

 「高3コース」に76年4月号から一年間連載された、ジュブナイルの側面もあるフーダニットパズラー。
 ミステリドラマの内容と同じ形質で、同じ放映時間に起きた殺人事件、という趣向はちょっと面白いが、その高層階の密室での殺害トリックそのものは、警察がドラマ製作者から事情を訊くので、割と早々に読者にも明かされる。
 
 じゃあなんで犯人はこんなややこしいことをしたのかというホワイダニットと、連続殺人に展開する事件の謎の犯人を追うフーダニットの興味で後半を引っ張るが、最後まで読んでどちらもシマらない。特に後者は、読者の挑戦めいたものも終盤にあるのだが、特に決め手になる手がかりもないような……。前者も、<その目的>で得られるプラス要素より、なんだかんだで事件を目立たせてしまう~真相が暴かれやすくなるマイナスの側面の方が大きい気もする。

 あと、逃げ回りながら、妹の紀久子とアマチュア探偵役の恵一に支援を求める俊明、という作劇はわかりやすいサスペンスを狙ったものだろうが、饒舌に当人が内面を語り、その分、よほどの超ド級アンフェアでもしない限り、彼が犯人ではない=ジュブナイルだからどうせ最後は無事に助かるだろう? と推察してしまうのでほとんどスリルもテンションも生じない。なんだかな。
 
 ちょっと見の趣向は面白そうな感じなのに、実際の本編はアレな作品。本書が謎解きミステリとの出会いになって、なんだ今のミステリ、パズラーってこんなものか、と興味が減退した当時の読者が少なければいいんだけど。
(よくいえば、作者のあの手この手のサービス精神はキライではないけどね。) 

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