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ミステリの祭典

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見ざる聞かざる

作家 ミニオン・G・エバハート
出版日1961年01月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2023/07/07 18:04登録)
(ネタバレなし)
 世界大戦の拡大が予感される1940年代の初頭。カリブ海のジャマイカ諸島の一角にあるモンテーゴ・ベイの町には、元少佐で今は現地で農場などを営む富豪の実業家、50歳のアメリカ人、ロバート(ボブ)・デイキンの屋敷があった。ロバートは数年前に前妻チャーミアンと離婚し、その直後に今は25歳の若妻で、もとは名門クールマン家の出身だった令嬢エリザベスと再婚していた。だがエリザベスは年の離れた夫の酒好きに手を焼き、その心はロバートのいとこの息子で、かつてのエリザベスのボーイフレンドでもあった青年ダイク・サンダースンの方に傾いていった。そんななか、屋敷にダイクが、ロバートの片腕といえる仕事上の要人の女性ルース・レディングトンとともに来訪。微妙な空気が漂うなか、一人の生命が何者かに奪われる。そしてその現場には、見ざる聞かざる言わざるの猿の模型が、残されていた。

 1941年のアメリカ作品。マイナーメジャー? な女流作家エバハートの作品だが、これまで本サイトでもレビューがないので、そのうち本を購入して読んで感想を書いてやろうと思っていたが、先日の出先のブックオフで2003年の再版を250円で入手。昨夜読んだ。
 ちなみに評者はエバハート作品は、これで4冊目。地味にそこそこ読んでいる。

 主人公ヒロイン、エリザベスのよろめきメロドラマを主軸にした人間模様に、フーダニットのパズラーめいた(劇中人物の証言をもとに構成される不可能犯罪ものの興味もある)殺人劇が絡んでいくつくりで、その狙いはそれなりに面白い。

 ただし登場人物に総じて魅力がなく(各キャラの容姿とはか素性とかはそれなりに書き込まれているが)、特に何人かの周辺の男性の間を右往左往するエリザベスも、彼女に言い寄る男連中もあまり感情移入できないので、お話がいまいち盛り上がらない。中盤、エリザベスの危機の描写なんか、もうちょっと盛りあげられたと思うんだがな。
 一方で、ロバートの先妻や、仕事上の片腕役など、年増の女性キャラはそこそこ存在感はあった。
 
 広義の密室(めいたもの)が形成された事情、最後の方で明かされる事件の真の構造など、ポイント的な得点としては評価できる面もあるが、全体的にごちゃごちゃした解決と、前述のキャラクター総体の色栄えの無さが悪い方に相乗して、最後まで読んでも、う~ん、きびしいな……がホンネ。いくつかの点で、劇中人物の思考の推移や、行動の選択もどうかと思えるものもある。

 もう少し話を整理して演出を際立たせればもっと面白くなったんだろうな、という印象。というか、こういう人間関係の図式の枠内で、お話としてもミステリとしても興趣豊かに読ませるのが、クリスティーの諸作だ。
 伏線の張り方など、もしかしたら、面白いと思う人はいるかもしれない。個人的には、できたもので面白かった面と、最初にその話題が出た以降で登場人物たちが掘り下げなかったことへの違和感めいた部分が、相半ばである。
 評点はちょっとキビしいかもしれんけど、こんなもんで。

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