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ミステリの祭典

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真相崩壊

作家 小早川真彦
出版日2023年04月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2023/06/28 16:01登録)
(ネタバレなし)
 1995年7月。その年、山梨県を襲った巨大台風は山岳の崩壊まで導き、ひとつのニュータウンを消滅させた。犠牲者は300人近くに及ぶ大惨事となるが、やがて発見された遺体のなかに、どうも天災以前に何者かによって殺害されていたらしい一家がいることが明らかになる。そして2010年、家族を当時の災害で失った青年・名取陽一郎は成人し、今は防災科学研究所のスタッフとして世間に知られる活躍をしていた。そしてそんな彼は、ある人物に再会。そしてほぼ時を同じくして、また過去の事件も新たな展開を見せる。

 論創社(いつもお世話になっております)による、国産ミステリを対象とした新人賞「論創ミステリ大賞」の第一回受賞作。同時に同社がスタートした、新作国産ミステリ専科の叢書「論創ノベルス」の第一弾である。

 帯で謳っている通り、作者は以前に気象予報官の経歴があり、その職歴のなかで得た知見も作品に投入。特殊分野を題材に社会派の要素もあるフーダニットパズラーを展開……こう書くと、正に昭和~平成の乱歩賞作品(の大半)だ。
 1961年生まれの作者は作家としてのデビューはやや高齢だが、ミステリファンだったらしく、作中にさりげなく笹沢佐保の天地シリーズとかの書名も登場。
 内容も、人間関係の組み立て方(特に良い意味でぬるい主人公とヒロインと、その周辺の人々の関係性とか)など、なんか懐かしい昭和ミステリの味わいがあるが、謎解き作品としては二転三転する犯人の意外性、事件の実態など、なかなか面白い。
 読後にTwitterでの感想を見ると、クイーンの某ライツヴィルものを連想させるとの感慨を語っている人もおり(こう書いても、特にネタバレになってないと思うが)、ああ、あの辺のことかな、と微笑んだりする。

 作者がアタマいいな、というか達者だな、と思ったところは、ムダにモブの作中人物に固有名詞を与えないことで、その辺は熟成期以降の清張みたいだが、おかげでとても読みやすい。登場人物メモでは30人強の名前のみ書いたが、映画的に言ってカメラが顔を映したレベルの劇中キャラはその倍は出ているだろう。
(アホな作家は、作品を、物語世界を作る送り手の万能感に酔って、本当の端役にまで固有名詞を与えるので、その分、小説が読みにくくなる。)

 優秀作、とは言わないし、どこか良くも悪くも古めの作風というところもあるんだけど、十分に秀作であろう。
 まあ乱歩賞に送っていたら、前述の意味であまりにもいかにも、な感じの作品という気もするので、その意味ではこっち(新設された賞)に応募して正解だっただろうね。

 評点は8点に近い、この点数。
 次作も期待しております。

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