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ミステリの祭典

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ヒッチコックを殺せ

作家 ジョージ・バクスト
出版日1987年12月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 クリスティ再読
(2023/06/25 22:24登録)
まだ「ある奇妙な死」は評者しか扱ってないんだなあ。一応「ゲイミステリの金字塔」とまで言われた作品だったんだが、このジョージ・バクスト、1980年台のEQMMでは主力級で活躍していて、よく「EQ」に短編が載っていた。しかし長編の翻訳は2冊きり。紹介タイミングを逸した作家の一人になってしまった。

高踏的で文学的な「ある奇妙な死」とは違って、本作はメタな味わいを生かしたスパイスリラー。主人公は若きヒッチコック。前半は処女監督作「快楽の園」をミュンヘンで撮影中に、スクリプトガールが自宅のシャワー中(「サイコ」)、さらにその捜査に刑事が訪れている面前でピアニストが殺害されえ。ナチス台頭期の不穏な情勢。フリッツ・ラング夫妻と食事をするが、「メトロポリス」の脚本家でラング夫人のテア・フォン・ハルボウはしっかりナチスに感化...そんな状況下で、事件は未解決のまま終わる。
そして1936年のロンドン。「バルカン超特急」を準備中のヒッチコックの元に、ミュンヘンの事件で一緒に仕事をした脚本家から「見てほしい」といわれたシナリオが届く。それを持ってきた男はヒッチの面前で刺されて死んだ...このシナリオの導くままに、ヒッチコックはまさにヒッチコックの映画の筋書きそのままに追いつ追われつの追跡と逃亡の劇を演じる。

まあだから、メタなあたりが狙いの小説。ヒッチコックの映画の場面をそのままヒッチコックが演じるようなものだから、ファンアートっぽい印象もあるんだけど、そこはキャリア十分の作家だし、映画にだって関わっている人。映画のネタの嵌め込み具合など、堂に入ったもの。
しかしまあ、場面場面を優先することになるから、プロットはどうしてもはっちゃけ気味。どうやら文章に語呂合わせなどくすぐりが入ってて、それが面白味のようだけど、翻訳はこれが全然再現できなかった旨があとがきにある。
もっとガンガンと実在の映画関係者を出したらよかったのに。ラング夫妻くらいなのでそこらへんが不満なこともある。

狙いはわかるけど、もう一つ。「ある奇妙な死」は三部作だそうだから、続編を紹介してくれた方が嬉しかったな。

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