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ミステリの祭典

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没落

作家 結城昌治
出版日1962年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2023/06/21 19:28登録)
(ネタバレなし)
 昭和37年8月(あ、『キングコング対ゴジラ』の封切りの月だ!)に刊行された、作者の初期中短編集。
 4本の短編と表題作の中編、計5編のサスペンス編、クライムストーリーなどを収録する。

 以下、備忘録がわりに、内容の紹介メモと簡単な感想。

・「不倫」(オール読物 37年3月号)
……35歳の美人の社長夫人が、息子の家庭教師である28歳の青年と不倫。それをネタに謎の人物から大金を脅迫・要求されるが。
 最初から巧妙な話術で、あれ、結城作品ってこんなに読みやすかったっけ? と、いきなり驚かされた。話の流れは一部読めるが、テンポの良さと最後までのストーリテリングが冴える秀作。

・「犯行以後」(別冊小説新潮 36年10月号)
……情婦のOLが妊娠した、子供を生むというので、殺してしまった妻帯者の中年サラリーマン。その犯行の行方は。
 目撃者に顔を見られたのでは? という焦燥と恐怖が読者にも伝わり、最後でう~む、というラストを迎える。もともとは日本版「EQMM」での新人賞でデビューした作者だが、いかにも翻訳ミステリっぽい仕上がりの一本。

・「とらわれた女」(別冊小説新潮 37年1月号)
……テレビ番組のディレクター兼プロデューサーがコールガールを呼ぶが、その女はなじみの売れない女優だった。
 ウールリッチのノワールサスペンスを思わせるようなムードの一編で、追い詰められていく主人公の緊張感が生々しい。最後のシャープなオチもなかなか、

・「不在証明」(新気流 37年2月号)
……世間で話題になっている殺人事件。その最重要容疑者が獄中から存在を主張する、当人のアリバイを証明する人物。それは自分だった!?
 掴みのよい設定で開幕し、これも好調な語り口で読ませる作品。最後の二重三重のオチは……ああ、なるほどね、という感じ。

・「没落」(別冊文藝春秋 37年1月号)
……女性向け雑誌の、やり手の女性編集者が殺され、死体が路上で見つかった。事件は意外な? 展開を迎える。
 巻末に収録の表題作。それまでの4本とは紙幅(ボリューム)も内容も明確にチェンジアップした作りで、最後にこれがきて軽く面食らった。
 出版界周辺の群像劇をやや淡々と読まされ、これは最後にちょっとオチる出来のが来たかな? と思いきや、終盤の方で妙な方向にギアが入る。広義のミステリではあろうが、ラテンアメリカの短編小説みたいな歯応えのまとめ方。これはこれで面白かった……かな。

 何十年も前に、SRの会の東京例会での会員間の古書オークションで、たしか誰も買わなかったので安く引き取って来た一冊だったと思うが、落札してみたら長編じゃないので、今まで放っておいたような記憶がある。
(巻頭の方の遊び紙が中途半端に切り取られているが、たぶん作者が為書き入りで献本を送り、受け取った側が礼儀として、そこを切り取って古本屋に売ったのだと思う。)

 気が向いて書庫から取り出し、読んでみたら、前述のように表題作以外は軽妙ながらしっかりした語り口、最後の意識的なオチ、とまるでスレッサーの諸作。で、表題作は表題作で、これはこれで味があった。本との出会いなんて、偶然の縁も大きいが、これは何となく入手しておいて良かった一冊。
 作者の初期短編は、また機会があったら楽しんでみたい。

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